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2014年11月23日 (日)

西表Ⅱ/炭坑跡

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終点のウタラ炭坑跡は森の中にひっそりとしずまりかえっていた。
そのあたりには見学用の木道がつくられている。
ハイキング気分でのんびり歩いてきたわたしだけど、そこでぴたりと足がとまってしまった。

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炭坑跡といっても坑道やボタ山が残っているわけではなく、あるのはレンガでできた古い建物の一部と、目をこらせば土管や工作機械の残骸、無数のビールのあき瓶が転がっているぐらいのものである。
そのレンガの柱に、まるでSFに登場する触手をもった吸血怪獣のように、巨大なガジュマルの木がからみついていた。
西表のべつの場所にある天然記念物のサキシマスオウより、こっちのほうが思わず息をのむような迫力だ。

炭坑というと、かってはタコ部屋の代名詞だった時代がある。
ウタラ炭坑の場合はわりあい福利厚生の充実した近代的な炭坑で、上下水道や大浴場、診療室が整備され、坑夫の家族のために私立の学校や300人収容の劇場まであったそうである。
西表島にはマラリアが多かったので、蚊の対策も講じられており、患者の数は西表島の炭鉱の中でも抜きん出て低かったという(このへんはウィキペディアの受け売り)。
残念なことにこういう経営者の努力も、太平洋戦争のぼっ発で石炭の需要が高まると、労働条件はタコ部屋に逆戻りしてしまい、ウタラ炭坑でも坑夫への虐待、リンチ、殺人などがあったというから、そうした犠牲者の怨念がこもっているのではないかと考えると、からみついたガジュマルはそうとうに不気味である。
この場に居合わせたのはわたしひとりだから、さらに不気味。

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現在のウタラ炭坑跡は、2007年に経済産業省の 「近代化産業遺産群」 に認定されている。
もっと観光誘致されてもよさそうだけど、個人的にはタコ部屋を産業遺産に認定していいのかという疑問もある。
度はずれた時間外労働で有名になった居酒屋チェーンのごとく、現在はタコ部屋が復活しつつある時代だし、日本の大企業の中には暗い過去をもつものも少なくないのだから、近代化に貢献した陽の部分ばかりではなく、そうした点もきっちり保存してほしいものだ。

ガジュマルの根はほんのわずかなすき間やひび割れにも侵入し、いつかその根っこのパワーで岩や建物を崩壊させてしまうらしい。
ウタラ炭坑跡もやがて森の中に埋没する運命なんだろうけど、そのころ日本はどうなっているだろう。
虐待や24時間労働が過去のものになってるかどうか、木道上の木の葉を踏みつつ、わたしはしばらくぼんやと考えた。
森羅万象をすぐに政治問題に我田引水してしまうのがわたしのブログの長所(欠点?)だ。

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