西表Ⅱ/マングローブ
今回の旅でちょっと誤算だったのは、思ったより涼しい日が多くて、ウエットスーツを持ってないわたしは泳ごうという気になれなかったこと。
若い人なら泳いで泳げないほど寒くもないけど、なにしろわたしは若者じゃない。
血圧も高いんだし。
泳がないなら何をすればいいだろう。
カヌーに乗ってマングローブの森をうかがうツアーなんてのがある。
これならマングローブに肉薄できて、それをじっくり観察したいわたしには好都合かもしれない。
でも、まちがえるとスポーツになってしまいそう。
わたしは運動をするために西表まで出かけたわけじゃない。
若いモンに混じって、いまさら肉体を鍛えるなんて、年寄りの冷や水といわれてしまいそう。
女の子とペアを組んでカヌーっていうのもステキだけど、わたしはひとり旅で、そんな奇特な相手がいるわけじゃないし。
マングローブというのは汽水域、つまり淡水と海水の混じるところに生える植物群の総称で、ということは浦内川や仲間川のクルーズに参加するとガイドが必ず説明することだから、認知症ぎみのわたしもおぼえてしまった。
なんでもオヒルギ、メヒルギ、ヤエヤマヒルギ、なんとかヒルギ、かんとかヒルギがあるそうで、ぐいっと根をはっているのが雄ヒルギ、そうでないのが雌ヒルギと、ここまでややこしくなると、もうおぼえられない。
汽水域だから海の魚も川の魚もいるわけで、テッポウウオなんて珍しい魚も西表で見つかったことがあるそうである。
ほかにも大シジミやガザミやアナジャコなど、酒のつまみに好適な生きものも多いらしい。
博物学的にこんなおもしろいところはないのである。
そういう事情でマングローブの森に関心をもったわたしは、あっちこっちで、その根もとを興味津々でのぞきこんでみた。
11月のはじめは大潮だったらしく、西表に数多い川の河口には広大な干潟がひろがる。
干潟はとうぜんながらマングローブにふちどられているから、カヌーに乗らなくても、道路からちょくせつその根もとに近づける場所はたくさんあるのである。
マングローブの森はその中にさまざまな生きものを育んでいて、生態系の維持におおいに貢献しているそうだから、そばによってじっくり観察すれば、めずらしい動物がたくさん見られるのではないか。
しかし、期待が大きすぎたせいか、干潟でそんなにたくさんの生きものが見られたわけではなかった。
潮が引いたあとの干潟にたくさんいたのは、ウミニナとよばれる巻貝の1種とヤドカリぐらいで、ほかにシオマネキやコメツキガニなどの甲殻類がすこし。
近くに寄ってみてもそうだから、カヌーの上からもとくべつなものが見えるとは思えない。
というわけで、けっきょくいちどもカヌーに乗らなかった。
でもこれについては慙愧の念もいくらかある。
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