西表Ⅱ/カニたち
仲間川のあたりをレンタカーでドライブしていたら、干潟に下りられそうなわき道があったので、えいっと車をUターンさせてそこへ突っ込んでみた。
ほんの10メートルほどしかない道路の切れっぱしみたいなところで、それでもここから堰堤の石垣をつたって干潟に下りることができた。
遠くから見ると美しい干潟だけど、すぐ近くに行かないと生きものまでは見えないのである。
ところがそうやって、粘っこい泥の上をじかに歩いてみたにもかかわらず、こっちの期待が大きすぎたのか、生きものがあふれているというほどじゃなかった。
泥の表面に無数の穴があいているから、そうとうの生きものが生息しているらしいことはわかるけど、その大多数は潮の干満に合わせて泥の下にもぐってしまうらしい。
スコップで掘じくってみればおもしろそうだけど、みんながみんなそんなことをしたら環境破壊になってしまう。
それでもある場所で、小さなカニの大群を見た。
丸くて青っぽい色をしているから、これは軍隊ガニと称されるミナミコメツキガニらしい。
わたしが近づくと、爆撃機に追われる敗残部隊のように、まとまったまま移動して逃げていく。
さらに近づくと、防空壕に避難する敗残部隊のように、われ先にと土の下にもぐってしまう。
しばらく待機していると、様子をうかがう敗残部隊のように、穴ぐらからそろそろと姿をあらわす。
ミナミコメツキガニについては、たまたま逃げおくれたものをつかまえたので、他のカニといっしょに紙カップに入れて写真を撮った (上の写真)。
干潟にはほかにもカニがいる。
たまたま小さなカニが泥の上にうずくまっているのを見つけた。
甲羅の長さが2センチほどで、つい気安く指でつまみ上げたらハチに刺されたような痛みが走った。
小さいくせにはさみの威力はなかなかのもので、ふりほどこうとしても、とがった先端が指にくいこんで容易にはなれない。
やっとひきはなしたときには、相手ははさみだけを残してどこかへトンズラしていた。
最後の2枚の写真は、そのときのカニが残したはさみと、穴があいたわたしの指。
都会の人間にとって、これほど広大で天然のままの干潟を歩く機会はあまりないだろう。
そのうち道路上からわたしを見かけたらしい家族連れのバンが、どーんと10メートルの切れっぱしに乗り入れてきた。
そのへんを潮どきにわたしが先に退散することにしたけど、道路上からふり返ってみたら、この家族がやはり干潟を歩きまわっているのが見えた。
はじめて陸上に上がった生きものの子孫であるわたしたちは、どこか干潟になつかしさを感じるのかもしれない。
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