西表Ⅱ/刺し網の2
刺し網からえものをはずすにはコツがいる。
ガザミのようなカニは、複雑でややこしいかたちをしているから、これをこんがらがった網からはずすのは大変だ。
わたしみたいに短気な人間は、見ているだけでいらいらして、そのうち網をぶった切ってしまいたくなる。
漁師たちは千枚通しのような器具ひとつで器用にそれをやってのける。
さわると危険な魚も多いから、あるていど知識と経験も必要だ。
3枚目の写真に写っているアイゴなんて魚は、食べると美味しいんだけど、危険な魚のひとつである。
エイもよく上がるけど、最初に尻尾の毒針を切断しなければならない。
フグやハリセンボンは、陸に上げられると空気を呑みこんでぷっくりふくれる魚である。
そのままでは網からはずしにくいから、まず千枚通しでお腹にぷすっと穴をあける。
痛そうだけど、野生動物というものは天敵に頭からかじられる可能性がつねにあるのだから、同情しても仕方がない。
ハリセンボンは市場に出さないけど、酒のおつまみや汁のダシにはなるので、手伝いにきた老人たちがその場で皮をむいて持って帰ることもある。
水揚げ作業には近所のヒマな老人たちが手伝いに駆けつけるのである。
ヒマなのにまだ元気な老人も多く、このあたりではまだいい意味での共同体精神が残っているのだ。
大きなゴイシウツボが揚がった。
お腹を割いてみたら、呑みこまれたばかりで、まだそっくりそのままの魚が出てきた。
ウツボも気のドクである。
魚を呑みこみ、満腹して、満足して、家に帰るとちゅうで自分が刺し網にひっかかっちゃって。
でもこういうことはめずらしくないだろう。
わたしは伊豆で定置網の水揚げを見たことがある。
定置網は刺し網よりずっと大規模な漁業だから、えものは太いホースみたいなものからどうーっと吐き出されてくる。
そんな中にかならず、呑みこんだばかりの魚の尻尾が口からはみだした魚が混じっている。
定置網の中では逃げ場がないから、これはいいというんでえものを追いかけて、つかまえて、呑みこんで、よく考えたら自分も定置網の中だったというドジな魚である。
ゴイシウツボも開腹手術で取り出された魚も、ポイと海に捨てられた。
すると、おこぼれをもらおうと待ちかまえていた魚たちがわらわらと群がってくる。
まるで生き馬の目を抜くこの社会の縮図のようである。
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