西表Ⅱ/カラ振り
ウタラ炭坑を見学に行ったとき、かたわらを流れる浦内川の支流に魚影が濃いのに感心したので、ひとつ実験をしてやれと、後日パンやソーセージを持ってもういちど出かけた。
釣りじゃないけど、そういうものを投げ込んだら、ひょっとするとピラニアやピラルクーのような怪魚が飛びついてくるのではないか。
炭坑へ行く道からほんの少しわき道にそれると、現在では使われていないコンクリートの古い橋があり、そのすぐ下に夏のあいだだけ使われていて、いまはお休み中のボートが2隻つながれていた。
まわりは静寂そのものの、いちめんマングローブの森である。
橋の上からパンくずを投げ込んでみた。
パンくずはゆっくりと上流へただよっていく。
ただよっていく方向が逆だけど、このあたりの流れはまだ干満の影響を受けているのである。
しばらく見ていたけど、なんの音沙汰もない。
水面も、まわりのマングローブの森も、あいかわらず森閑としているばかりである。
クリームパンだったのがいけないのかもしれない。
パンくずではダメなようなので、つぎに糸でつるしたソーセージを川に沈めてみた。
小指ほどあるソーセージだから、丸呑みする魚はいそうにないけど、でっかいカニが釣れるかもしれない。
わたしは同じ方法で、家の近所でザリガニを釣ったことがある。
結論からすると、こちらも音沙汰なし。
どうもこのへんの生きものにとって、パンやソーセージは口に合わないようだ。
浦内川のクルーズ船でパンくずをまいたときには、小さなサヨリが群がってきたんだけどね。
川の魚がダメでももうひとつ試してみたいことがある。
この橋の近くに土を盛り上げた噴火口のような穴がたくさんあいていて、家主のすがたは見えないけど、これはオキナワアナジャコの巣らしい。
どういうわけか水ぎわでなく乾いた登山道の近くに多い。
アナジャコは夜行性だというけど、目の前にエサがぶら下がってくれば、いてもたってもいられずに飛びつくのではないか。
カニの仲間はたいてい見境がないほど貪欲で、西表の別の場所で試したヤドカリや、わたしの家の近所のザリガニがそうだったのだ。
穴の入り口からソーセージをそろそろと下ろしてみた。
深さが1メートル半もあったにはたまげたけど、家主が飛びついた感触がない。
ゆっくり引き上げてみたけど、ネコみたいにじゃれつく様子もない。
これも空振りだった。
ぐっすり寝ていたのだとすれば、野生動物にあるまじきやつで、写真が撮れなかったから、最後の2枚の写真はネットで採集したものだ。
こんな調子で、ウタラ炭坑までの道のりにどんな生きものがいるのか確認する作業はことごとく失敗した。
しかしここの生きものを釣るのは簡単ではないということがわかっただけでも、実験の成果はあったというものだ。
このつぎに機会があれば、もう少し複雑な方法で試してみようと思う。
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