ロシアⅢ/北朝鮮レストラン
スーパーから出たあと、北朝鮮レストランに行きたくないですかと金髪クンがいう。
腹はへってないぜといってみたけど、なかなか強引だ。
どうもその店に目をつけた娘がいるみたいである。
じゃ軽く一杯だけといって付き合うことにした。
かっての金髪クンはぜんぜん呑まない男だったけど、ロシア人の本能に目覚めたのか、それとも放蕩にはまっちゃったのか、いずれにしてもなかなかイケる男になっていた。
北朝鮮の店ってどんなところなのか。
スーパーから近いというので徒歩でぶらぶら。
地下になった店で、テーブルと椅子、塩化ビニールの床、壁に富士山の(ってわけないけど)つまらない絵という、日本ならそのへんのカラオケスナックのほうがマシといったていどの殺風景な店だった。
そういえば、むかしの中国にこんな雰囲気の店が多かったねえと思う。
わたしたちが行ったとき客が数組いたけど、すべて東洋人だった。
日本人もいますと金髪クン。
カーテンで仕切った個室みたいな部屋に、日本語を話すグループがいたらしい。
なにか国際諜報の話でもしていたのか、それとも予算をムダ遣いする外交官だったのか、わたしたちの会話を聞くと、すぐに出ていってしまったけど。
朝鮮なら焼肉とキムチだ。
焼肉を食べるほど空腹じゃないから、キムチとレバ刺を頼んだ。
酒は朝鮮語のラベルがついた焼酎にしてみた。
中国の茅台酒みたいなものかと思ったけど、度数はたいしたことがないので、ちょっと期待はずれ。
ウエイトレスは、じっさいに接客業務についているのは3人ぐらいで、これは、まあ美人といっていいのかどうか。
美人とすれば、少なくてもわたしの見立てでは、ふっくらぽっちゃりした古風なタイプで、土屋アンナや滝川クリステルみたいな現代的な美人はいない。
あの子ステキでしょと金髪クンはいう。
そうかいと、わたしは疑問符つきの返事をする。
よく知られているように、彼女たちは北朝鮮の国家公務員である。
経済制裁をくらって困った北朝鮮は、なりふりかまわず外貨を稼ぐために、国内の美人をこういうところで働かせているのである。
彼女たちの稼ぎはすべて国家に没収され、わずかな給料をもらうだけなのだ。
そのせいかどうか、たぶんそのせいだろうけど、彼女たちの表情はけっして明るくない。
サービスもなってない。
椅子にひっかけてあった客のマフラーが床に落ちたとき、通りかかったウエイトレスは、ここに落ちましたとだけいって、マフラーは客が自分で拾っていた。
こんな調子だから、彼女たちをくどくなんてのはもってのほか。
くどいたところで、家族を人質にとられた彼女たちには、客と駈け落ちする自由もないに決まっている。
世が世であれば、古風な美人の彼女たちだって、もうすこし幸せになる権利があっただろうに。
まずい焼酎、うまくないキムチ、どうでもいいレバ刺を味わいながら、わたしはひたすら彼女たちの境遇に同情していた。
それでも支払いはちゃんとカードが使えた。
というわけで、情熱の夜を期待した人には残念ながら、この晩もたいしてイロっぽい話はなし。
帰りにメトロ駅の構内で、幸運を呼ぶというイヌの鼻っつらをなでて帰ってきましたけど、やっぱりひとりで枕をかかえて寝ただけですもん。
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