ロシアⅢ/スーパー
前回のロシア訪問で、金髪クンはわたしが “市場” に興味があることを知っている。
スーパーに行きたくないですかと訊く。
市場ではなくスーパーである。
市場なら大好きのわたしだけど、スーパーなんて横文字で書かれるともうイヤな雰囲気。
彼のいうスーパーに行くために、メトロでレニンスキー・プロスペクト駅でまで行く。
この駅頭には巨大なガガーリンの像が立っている。
ガンダムみたいでしょうと金髪クンはいうけれど、わたしってガンダムに詳しくないからねえ。
この近くに建設中で鉄骨がごちゃごちゃとむきだしみたいな、けったいなビルがあって、ロシア科学アカデミーの本部だそうだ。
わたしにはおそれ多い建物みたいだから、遠くから眺めただけでおしまい。
近代的なスーパーがモスクワにいくつあるか知らないけど、この日にわたしたちが出かけたのは、棚に品物が満載で、客は勝手に欲しいものをカゴに入れ、レジで精算するという、ようするに日本のどこにでもある郊外型の大きなショッピングセンターだった。
金髪クンにいわせると安いんだそうだ。
そりゃまあ、かってのソ連のような非合理的な店とはちがうでしょ。
でもわたしはロシアまで買い物に来たわけじゃないぜ。
なにも買うつもりのないわたしは、棚のあいだをぶらぶらして、地ビールのラベルなどを見て歩いた。
ソ連時代のロシアは、とにかくモノ不足で、街を歩くロシア人はいつもズダ袋をかかえていたそうである。
街でなにか売り出されていたら、不必要なものでも、とりあえず買っておくためである。
しかし現代ではスーパーの品揃えは日本とそれほど変わらない。
共産主義時代の店員のおうへいな態度が影をひそめたってところも感心である。
ある棚で、これが美味しいです、ぜひ買いなさいと勧められたのが、ロシア産キャビア。
魚の卵でしょ、わたしはカズノコもイクラも、なにがなんでも食べたくなるほど好きじゃないんだけどと思ったけど、金髪クンはさっさとカゴに入れてしまった。
あとでよく見ると、缶のふたにイクラと書いてある。
どうみても日本のイクラと違うけど、そこはそれ、万事におおらかなロシアのことだから無視しよう。
この缶詰は蓋を開けるのにコツがいるそうで、彼が専用の缶切りまで買おうとするのをわたしは必死で止めた。
食べ方も金髪クンが教えてくれたけど、パンにバターとこのキャビアを塗りたくって、チーズといっしょに食べるのが正規の食べ方だそうだ。
わたしは正規というムズカシイ食べ方がきらいで、たいていは山賊みたいな食べ方をするほうだから、そういうゴタクは無視して、以前もらったときはスプーンですくってそのまま酒のつまみにしたっけがな。
けっきょくここで、金髪クンはわたしそっちのけで、コーヒー豆や調理用の油、洗剤などの日用品を買い込んでいたから、彼のための買い物だったみたいだ。
彼は子供でわたしは大人、彼は貧乏学生でわたしは日本の大富豪、だからやむを得ないけど、その勘定はぜんぶわたし持ちだった。
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