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2015年5月19日 (火)

気まぐれ美術館

前項の外口書店の均一台から引っこ抜いてきた文庫本は、洲之内徹という人の書いた 「気まぐれ美術館」 という本である。
わたしはこの著者についてなにも知らなかった。
調べてみると、戦前の生まれで、召集されて兵隊も経験しているし、プロレタリア運動に傾注して当局ににらまれ、転向したあとは作家をしたり、出版会社や映画プロダクションを作ったり、最後は銀座で小さな美術商を営んでいたという。

写真で見ると、風貌は作家の吉行淳之介か漫画家のはらたいらみたいで、なかなかハンサムな人なんだけど、収入もないのに小説を書くことに熱中したというから、家計はどうしていたのかと心配してみたら、案の定、そのため一家離散の憂き目に遭ったとか。
1987年に他界しているけど、なんかむかしの文士の典型みたいな人である。
この本の中で、四畳半ひと間のアパートに20年以上居座っていたと書いているから、好きなことをやれれば住まいなんぞ気にしない人だったようだ。
うん、わたしにも似たところがあるな。

芥川賞の候補になること数回というくらいなので、文章はしっかりしていて、なかなかおもしろい。
本の内容は、彼が美術商時代に関わりを持った、たくさんの画家たちとその因縁話について書いたものである。
無知をさらすようだけど、出てくる名前は、井上肇、佐藤哲三、杉本鷹、吉岡憲、岡鹿之助、林倭衛、松本竣介などなどで、わたしの知らない画家がほとんどだ。
美術商ではないわたしが画家の名前に詳しい必要はないんだけど、どうもわたしには、日本の油絵なんてみんな欧米の模造じゃないかという偏見があるらしい。
おまけに日本人が西洋の絵画に出会ったのは印象派以降なので、日本にはレンブラントやゴヤがいないもんねとうそぶいてしまう。

余計な私感はさておいて、古本屋の均一台で見つけた 「気まぐれ美術館」 は、くだらない映画やアホらしいテレビ番組にうんざりして、たまにはおもしろい本をじっくり読みたいと思ったときにふさわしい本だ。
わたしにとってやっぱり掘り出し物である。

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