カリマンタン/長髪クン
街をぶらついているとき、声をかけてきた男性がいた。
髪を肩までだらしなく伸ばし、大きなリュックを背負って、サンダルばきでペタペタと歩いていた。
売れない作品をせっせと描いている、修行中の漫画家みたいである。
ボクは旅のガイドをやってますというから、おどろいた。
ガイドという職業に対する日本人の固定概念を打破するようなガイドである。
ちょうど飛行機で貨物送りにした荷物が届かなくて困っているときだったから、なにか頼りになるかと思って話をしてみた。
じつは彼はなかなか有名な男だった。
すり切れた新聞記事のコピーみたいなものを持っていて、それをわたしに見せてくれたのだが、それはまさに、わたしがこの旅に持参した 「地球の歩き方」 の中の、読者の口コミ情報をコピーしたものであった。
そこには 「タイラー(Tailah) さんは英語が喋れる個人ガイドです。早朝の水上マーケットをアレンジしてくれました」 とある。
だらしない長髪の彼は、この街に来る旅行者が頼りにしていい男だったのである。
じつは荷物がねというと、ボクのオフィスのとなりがガルーダの営業所ですという。
それじゃ文句をいいに行こうかと、彼のオフィスまでいっしょに付き合うことにした。
オフィスというより物置きみたいなところだった。
畳み3枚くらいのスペースに、手作りみたいなデスクや椅子が並べられ、壁には地図や予定表などが貼られている。
日本人からみると悲惨だけど、バンジャルマシンでは、これでも一国一城のあるじが居すわるのにふさわしいところらしい。
ただし、もともと観光客は多くないところだ。
彼は毎日せっせと歩きまわって、獲物を探すハエトリグモのように、わたしみたいなひとり歩きの旅行者を探しているのだろう。
見た目よりも人間はわるくないようだし、わたしは彼を信頼して、この後バンジャルマシンを去る日まで何度かお付き合いをしてもらった。
さすがに日本語までは話さないけど、英語を話すというだけで、バンジャルマシンではなかなか貴重なガイドのようだった。
5日間ほどの短い出会いだったけど、最後には別れるのがつらくなったくらい。
写真ではわたしの顔だけぼかしを入れて、彼の顔はおおっぴらだけど、いいんじゃないか。
これからバンジャルマシンに行こうという日本人がいたとして、修行中の漫画家みたいな男につきまとわれたとしても、ああ、これがあの有名なタイラーさんかと安心できるはず。
彼にとっても宣伝になるはずだし。
彼の連絡先は 「地球の歩き方」 のカリマンタンのへんに書いてあります。
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