カリマンタン/ホテルのまわり

バンジャルマシンのホテルは 「スイス・ベルホテル」 というところである。
ネットで調べて、きれいそうだということで予約したんだけど、これはたしかにモーム流にふさわしいホテルだった。
“モーム流” というのは、まえに書いたように、あるていどめぐまれた階層の人間が、特権階級として泊まるのにふさわしいホテルということである。
ただ、豪華であればいいというのではない。
なにかしら知的好奇心に訴えるところがなければ、モーム流にふさわしくないのである。
では、スイス・ベルホテルのどこが知的好奇心に訴えたのか。
出発まえにいろいろ現地の写真を集めてみたら、バンジャルマシンは予想以上にきれいな街に見えた。
たぶんホテルは閑静で、ハイブロウな場所にあって、それでもすこし街を探索すれば、まだまだあちこちにむかしながらの騒がしい東南アジア的景色が発見できるのだろう。
そんなふうに考えていた。
ところが、見ると聞くとでは大違い。


スイス・ベルホテルから一歩足を踏み出すと、そこはもう、車のあいだを人力車やオートバイがサーカスもどきに走りまわり、汚い市場があり、やかましい問屋があり、ガシャガシャ、ゴチャゴチャ、ドタドタ、バタバタ、ゴミが散乱し、人々はつばを吐き、野良ネコがうろうろ、ネズミの死骸が転がる、ベルホテルはまさに、阿鼻叫喚のオールドタウンのまっただ中にあるホテルだったのである。
わたしは先進国から来た旅人として、あっけにとられてこれを眺めた。
だんだんわかってくるけど、ベルホテルの周辺は、バンジャルマシンでも古い街の雰囲気がいちばんよく残るところだったのだ。
でもホテルの中は別世界だった。
建物はきれいだし、設備も待遇もグローバル、従業員はみんな親切で、フロントの女の子たちも素朴で可愛らしい。
こうやって自分だけは高みに隔離されていて、下々の世界を観察する、これぞまさしくモーム流なのである。
高級リゾートなんか期待する人にはとんでもないところだけど、人間のなまの生活に興味のある人には、これほど便利なホテルはないだろう。
ふだん自分が住んでいる世界とまったく異なる世界を見ることは、人間について、社会について、人生について、いろいろ考えさせられるものだ。
つい哲学者みたいにエラそうなゴタクを述べたくなるのも、モーム流のなせるわざか。
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