夢十夜
夏目漱石に社運を賭けようというウチの新聞が、こんどは「夢十夜」の連載を始めるらしく、今朝の新聞にその前置きみたいな文章が載っていた。
これは短いエピソードを10個集めた風変わりな小説だけど、さて、万人向けとはいいがたいこの奇妙な物語を、読んでごらんなさいと人に薦められるかどうか。
悩んでイマス。
「吾輩は猫である」にしても、「坊ちゃん」、「草枕」にしても、「三四郎」から続く一連の作品にしても、他人に薦めるのにはそれなりの根拠がある。
しかし「夢十夜」だけは、なんといったらいいか、まったくとりとめのない、曖昧模糊とした、不思議な物語なのだ。
どのくらい不思議かというと、ほかならぬ漱石自身が「猫」の中で揶揄しているくらいだ。
〝せんだっても私の友人で送籍(そうせき)と云う男が一夜という短篇をかきましたが、誰が読んでも朦朧として取り留とめがつかないので、当人に逢って篤と主意のあるところを糺して見たのですが、当人もそんな事は知らないよと云って取り合わないのです〟
これは「猫」の中の文章である。
夢というものは、見ているときには不思議だと思わない。
そのくせ夢から覚めると、そんなことがありうるはずがないと思う。
そんな知覚のどんでん返しのような、つかもうとしてつかめない不思議な感覚。
漱石の潜在意識をつづったとされる、ホラー小説のような不気味なエピゾードの数々。
わたしはこれを読んだとき、夏目漱石という作家のべつの一面を発見したような気分になったものだ。
とまあ、このていどのことを書いておくから、興味のある人だけドーゾ。
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