富山湾/光るもの
海で光るのはホタルイカだけじゃない。
わたしはむかし、自衛隊の艦船に乗り組んでいて、夜光虫のもっともにぎやかな季節に、夜の海を航海したことがある。
うねりの中に艦がへさきをつっこむと、波がくだけて雨のように降りそそぐ。
そんなしぶきの中に夜光虫が無数にきらめいて、溶接工の作業現場にいるような壮絶な光景になる。
砲塔のわきを小さな光が流れて落ちるのを、わたしは正体を確かめようとして、目をこらして見つめていたものである。
ほかにも、たとえば深海魚やクラゲの仲間にも発光するものがいる。
条件さえよければ、海は満天の星空のように輝くことがあるのだ。
そんなある晩、わたしは海面下数メートルのところを、さし渡し1メートルもあるぼんやりとした光がただよっていくのを見た。
あれはたぶん巨大なクラゲだったのだろう。
人類が省エネなんてものに関心をもつよりはるかむかしから、生きものたちはLED照明のような、熱をもたない発光システムを実用化していたのだ。
ミュージアムのある場所に、ホタルイカにさわれるというコーナーがあった。
小さな水槽に生きたホタルイカが数匹。
実物の大きさはせいぜい人間の小指ぐらいで、 生きているときは体全体が半透明で可愛らしい。
わたしもなでなでしてきたけど、おもしろいのはその程度。
あとは大きな写真パネルや、発光のしくみなどを描いた解説図などが多くて、水族館にしては展示されている生きものも少ないし、見て楽しいものは多くない。
水槽の中に大きな越前ガニや、ヤリイカがいたけど、こちらは料亭でお目にかかるほうがいい。
ここに載せた写真はすべてネットより。
このあたりではホタルイカの身投げは見られないんですかと係りに聞くと、ミュージアムのうしろの海はコンクリートの岸壁ですからね。
こういうところじゃ身投げはありませんよという。
富山市の◯◯海岸あたりは砂浜ですから、今夜は大勢出るでしょう。
この場合の出るというのは、イカではなく、それをつかまえようという人間のことだそうだ。
ホタルイカの身投げは新月の晩に発生するすることか多く、この晩がちょうどそれに当たっているとのこと。
新月というのは月の光がいちばん弱くなるときだから、光を頼って行動するホタルイカは、目標を失って陸に乗り上げるんだろうという説もあるらしい。
ホントかウソか、 イカに聞いたわけじゃないからわからないけど、産卵などの時期を月の干満に左右される動物は多い。
写真やパネルをつまらない顔をしてながめていると、若い娘が親しそうに話しかけてきた。
わたしの魅力に惹かれるはずはないと覚悟していたものの、彼女の実体は、職務としてわたしに写真入りのカードを作らせようという、仕事熱心な写真屋の娘だった。
お父さんも1枚どうですかって。
そういう言い方に傷つくおじさんもいるんだけどね。
もちろんカードなんか作らなかった。
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