タイ/ゆるゆる
新品を買ってしまった沢木耕太郎の「深夜特急」という本。
6巻はすでに読んだけど、いくら図書館ににそれしかなかったからといって、ものの順番からいけば、まず第1巻から読むのが妥当だ。
いったいなぜ主人公は日本を発って、アジアからヨーロッパへの旅に出たのだろう。
疑問の答えは第1巻を読まないとわからない。
これがわからないまま、この本を純粋な紀行記と結論づけたのは乱暴だったかもしれない。
ひょっとすると第1巻に、映画「80日間世界一周」のような、旅立ちのきっかけとなる壮大なフィクションが描かれているかもしれないではないか。
第1巻を読んでみたけど、どうもそんなものはなさそうだった。
しいていえば、「80日間」と同じような、友人たちとの論争がきっかけといえなくもない。
「深夜特急」の主人公は、友人たちと、インドからロンドンまでバスで行けるかどうか賭けをして、自分の言い分の正しさを立証するために旅に出るのである。
とはいうものの、どうも映画に比べるとみみっちい。
この第1巻は、インドのデリーの安宿で主人公が目をさます場面から始まるんだけど、ここで主人公は朝起きてもなにもすることがなくて、だらしなく街をぶらつき、安食堂でメシを食い、夕方になるとまたホテルにもどってくるという怠惰な生活におぼれているのである。
なんかわたしの旅によく似てる。
五木寛之のデビュー作となった「さらばモスクワ愚連隊」では、主人公はやみくもにシベリア鉄道に乗るけれど、あれほどの積極性はないし、こちらの主人公はインドが気にいって、なぜかそこに停滞してしまうのである。
ドラマチックな要素はぜんぜんなく、このていどならひとり旅でだれでも体験するようなあっさりした描写ばかりだ。
本を読みすすんでも創作と思える内容はほとんど出てこないからして、これはやはり、作家がじっさいに体験したことをつづっただけの、純粋な紀行記と結論づけてもかまわないと思う。
主人公、この場合は作者の沢木耕太郎さんだけど、彼はこんなふうにバックパックひとつで、確たる目的もなしに海外を見て歩く。
気にいった場所があると居座ってしまったりする。
ヒッピー文化も遠くなりにけりのいまでも、そんな日本の若者がいるかどうか知らないけど、こういう生き方がニートたちのひとつのライフスタイルだった時代もあったんだよな。
わたしの場合、人生の終盤にさしかかってまだそんな状態だから、進歩がないといわれても返す言葉がないんだけどねえ。
作者が旅に出たのは1970年代の前半というから、そのときわたしは何をしていただろうと考えると、忸怩たる思いがいっぱいだ。
怠惰におぼれていた主人公は、ついにインドを発つ気になる。
すでに日本を出発してから半年も経っていたそうだ。
ここで舞台は香港に移る。
インドからロンドンに行くはずが、なんで香港にいるのか。
じつは前後が交錯しているというだけで、この旅のふり出し地点は香港なのだ。
香港のとなりにはマカオがある。
ここのカジノで勝負をする描写がすこぶるおもしろいけど、あまりべらべらしゃべってしまうと、タイでヒマつぶしのために読み、なにか書こうと思っていた本が、出発するまえにお役御免になってしまう。
ま、ゆるゆると行きましょう。
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