寒い国から帰ったスパイ
録画しておいた「寒い国から帰ったスパイ」を観た。
1965年の映画だから、何にでも影響されてしまう年ごろだったということで、これもわたしの世代の映画といっていいんじゃないか。
えっ、むかしはこんなおもしろい映画があったんだよ、お若いの。
といいたくなるけど、またアナクロ(時代錯誤)といわれそう。
「007/ロシアより愛をこめて」が公開されたのがこの2年前で、それに代表される荒唐無稽なスパイ映画が世間にあふれていたころ、そのアンチテーゼみたいなかたちで公開された本格的なミステリー映画だ。
本格的ということはひじょうに複雑ということでもある。
あまり簡単に結果がわかってしまうようでは、“本格的” という形容詞はつかないのだ。
この映画のストーリーもややこしいけど、結果を話すのはそれこそネタバレであり、原作に対する不敬罪であるから、ここんところは巧妙にぼかして書こう。
ベルリンが壁で仕切られていた東西冷戦のころ、ある作戦のために失業者に身を落とした英国の諜報員が、ようやく図書館事務員の仕事を手にする。
ここで彼を好きになるのが共産主義にオルグされた女性。
うちにゴハン食べに来ないって誘うんだけど、英国の女性ってのはさえない中年男をすぐに好きになっちゃうのかいと突っ込みを入れたくなる。
男がそれほどでもないリチャード・バートンで、女が魅力的なクレア・ブルームだから、よけいそう思う。
でも、じつはこれは巧妙に仕組まれた罠であって、女が男を好きになるのは筋書きどおりということがわかる。
この映画は、まず脚本がすばらしい。
突っ込みどころがあっても、終わりのころにはすべて納得できるようになっているのだ。
こういうややこしい映画を、予備知識なしに観ても意味がさっぱりわからない。
で、わたしはおおよそのあらすじを頭に入れてから観た。
映画の後半は一種の法廷劇になる。
なにしろわたしはあらすじを知っているのだ。
映画と同時進行で、この場面ではAが知っているのはここまで、Bは何も知らない、しかしCはすべてを知っている、だからCは落ちつき払ってるのか、などと納得しながら観る。
結果がわかっていても、いい文学作品をじっくりと読んでいるような気分にさせられる映画である。
思わずジーンとさせられてしまう。
そりゃまあ、健さんの映画もいいけどね。
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