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2016年8月14日 (日)

タイ/脱走米兵?

049

帰りは列車で帰ろうと、BTSのサファンタクシン駅にもどった。
駅のまわりにも、出勤時のサラリーマンや、通学の学生目当ての屋台がたくさん出ている。
そんな屋台の中に、あきらかに欧米人とわかる老人が、手作りらしきパンを売っているものがあった。
彼の容貌をたとえるなら、北朝鮮に拉致され、日本に帰国した蘇我ひとみさんという人がいるけど、彼女があちらで結婚させられていたチャールズ・ジェンキンスという米国人を連想すればよい。
長年の囚人のような生活が、顔に憔悴と苦渋を刻むというやつである。

いったい彼は何者だろう。
どうしてこんなところで、うらぶれた格好でパンを売っているのだろう。

ここでまたわたしの推理癖が頭をもたげるけど、彼はベトナム戦争のころの脱走米兵ではないか。
ベ平連のような組織に導かれて、首尾よく脱走に成功した彼は、タイでかくまってくれたタイ娘と恋に落ちる。
いまもむかしもアジア娘は白人が大好きだから、これはあり得るどころか、必然のように思えてしまう。

彼はタイ娘と結婚し、この娘は働き者だったから、生活のいっさいを彼女に頼って、タイで隠密裏に生活しているうち、いつしか年月が経過した。
アジア娘は欧米人に比べると多産で知られるけど、敵前逃亡や家族を捨てたという自責の念は、この脱走米兵にこころのかっとうをもたらし、彼はとうとう子供をつくらなかった。
もちろん脱走米兵に国家の保障はなにもない。
タイ政府からしても、所詮は招かざるお邪魔ムシで、どこまでいっても彼は日陰の身のままだ。

やがて彼と結婚したタイ娘も歳をとって、腰がイタイ、足がツライといいだして、彼が働かざるを得なくなる。
どう考えても場違いなところでパンを売っている彼をみると、そんな事情を想像してしまう。
作家のモームやポール・セローなら、一編の小説に仕立て上げたんじゃないか。
どうも悲劇ばかり想像しちゃうのがわたしの欠点だけど、ほかに合理的な理由を説明できる人イマス?

写真を撮っておけばよかったけど、尾羽打ち枯らすといったあんばいの彼を見て、遠くのほうから1枚撮るのがやっと。
グリーンの◯で囲んだのが彼だ。

この欧米人の人生も、わたしの人生も、複雑多岐な人生のほんのひとかけらに過ぎないと、いささかの感慨をもってわたしは駅のホームにあがった。

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