タイ/ソイの景色
バンコクに到着した日、もう夕方だったけど、ホテルで洗濯物を扱ってないといわれ、近所にクリーニング屋を探しに出た。
このこと自体はわたしにとってめずらしいことではない。
ホテルを出てあっと驚いた。
ホテルのまえの通りは、いかがわしそうな飲み屋やマッサージ店が軒をつらね、そこかしこに妖しい雰囲気のおネエさんたちがたたずむ、日本の新宿2丁目のようなところだったのだ。
ホテルの並びには安っぽい赤い風車を押し立てたムーランルージュなんて店もある。
でもまあ、へんにとりすました街より、わたしはこういうところがキライではない。
具体的にどんなところかを説明するには、言葉より写真のほうが早いからまた写真をならべるけど、いちばん最初の白いふちどり写真は、グーグルのストリートビューからの転写だ。
ホテルのまえの通りのようなところを、タイでは路地という意味で “ソイ” と呼ぶらしい。
ソイに屋台がずらりと並ぶのは、東南アジアの街ならどこでもふつうに見られる光景である。
わたしはこれを見て、香港を連想した。
台湾やインドネシアのバリ島にも似たような景色はあったけど、それが、なんといったらいいか、バリ島なんか同じ屋台でもどこか駘蕩とした気分があったのに、ここではいまやっておかなければという、切羽つまった活気のようなものが感じられる。
同じタイでもチェンマイとは違うから、これは人や車が多いという大都会に特有のものかもしれない。
沢木耕太郎さんの「深夜特急」では、香港が気に入って、想定外の長期間尻を落ちつけるくせに、バンコクについてはわりあいあっさり書いてある。
香港が気に入ったなら、バンコクも気に入りそうなものだけど、どうしてそうではなかったのだろう。
そこでもういちどこの本を読み返してみた。
彼は地図も予備知識もナシという、わたしより乱暴な旅をしていて、どうもタイについて、香港とはぜんぜんちがう、静かで美しい国だろうという先入観があったらしい。
ところがのっけから安い連れ込みみたいな宿に泊まるはめになり、ボーイたちから女は要らないかと執拗な攻勢をかけられている。
このへんから齟齬が生じたようで、それが彼が失意のままタイを去る原因になってしまったようだ。
日本人が来たらまず女を売り込めというのは、当時のアジア各国の共通認識だったようである。
わたしの友人にも若いころせっせと買春ツアーに精を出し、あげくにわるい病気をもらったなんてことを自慢する男がいた。
こんな状況が潔癖な沢木青年を失望させ、タイという国に好印象をもたらさなかったとしたら罪つくりな話だ。
今回のわたしの旅ではそんなことがない。
ぜんぜんない。
いまでは買春の主役は中国人に移ったのか、あるいはわたしがもう娼婦にさえ同情される年寄りになったせいか、バンコクでは女は要らんかねという話はひとつもなかった。
そのへんの店のまえにいた、オカマ然としたおネエさんに、このへんにクリーニング屋ありませんかと訊いてみた。
この奥にあるわよ、でも今日はもうやってないわとのこと。
仕方がないから洗濯物をかかえたままホテルにもどることにしたけど、この通りだけでセブンとファミリーマートの2軒のコンビニ、いやソイの入口にあるものを含めれば3軒のコンビニがあることがわかった。
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