タイ/公衆道徳
市場からの帰りの列車。
サファンタクシン駅からそのままBSTに乗ると、線路はくねくねと曲がりながら、サヤームという駅でBSTのスクムウェット線に連絡する。
スクムウェット線に乗り換えれば、ホテルの最寄駅であるプラムポン駅まで1本だ。
でも、まっすぐ帰るのもシャクだから、サヤーム駅のひとつ手前で降りて、ひと駅区間をまたぶらぶら歩くことにした。
やってきた列車は朝のラッシュでひどく混雑していた。
平均的なサラリーマンでないわたしには、ひさしぶりのラッシュ体験になった。
サヤーム駅のひとつ手前というと、ラーチャダムリ駅ということになる。
このあたりはバンコクの中心になるらしい。
日本でいえば霞が関みたいなところのようだ。
ところでわたしのお腹はまだおかしいので、移動中に緊急事態でトイレに行きたくなったら困る。
そこでラーチャダムリ駅でトイレをすませておくことにした。
ところが、新しくて大きな駅なのにトイレが見当たらない。
たまたま改札のすぐ内側に、女性警察官が机を出してふんぞり返っていたから、スミマセンけどどこかにトイレはありませんかと聞いてみた。
トイレ?
彼女はトランシーバーでどこかと連絡をとり始めた。
たかがトイレでわざわざなにを話すのかと思っていたら、今度は駅の清掃係のおばさんがやってきた。
おばさんにこっちへ来いと連れていかれたのは、駅員の詰め所みたいなところにある、一般人の立ち入れないトイレだった。
つまりタイでは駅に公衆トイレがないのである。
トイレに座りながら、この問題について考えた。
駅のトイレについて研究したわけじゃないから、ウカツなことはいえないけど、公共の場に誰でも利用できるトイレがあるのは日本だけかもしれない。
タイは平和でおだやかな国という印象があるけど、たとえば公衆電話。
バンコクやチェンマイで電話ボックスをいくつも見た。
これが世界の潮流だってわけで、ご多分にもれず、受話器もボックスも落書きだらけでボコボコにされていた。
もうおわかりだろうけど、たいていの国では、公共の施設に悲惨な運命が待っているらしい。
つまり公衆トイレなんか作ったら、たちまちぶっ壊されて、使い物にならなくなってしまうということである。
外国人が日本に来ておどろくのは、どんな田舎や山奥にいっても飲み物の自動販売機があるってことだそうだけど、これは治安のよさだけではなく、人間の公衆道徳心がかかわってくる問題だ。
日本のわたしの家の近所には、災害時の避難場所に指定されている大きな公園があり、いくつもの公衆トイレが設置されている。
もちろん夜中には無人になってしまう場所であるにもかかわらず、トイレはいつもきれいに保たれている。
人々がこういうモラルを持ってない国では、やたらに公衆トイレなんか作れないのだろう。
トイレから出たら、ドアの外側におばさんが待っていた。
公衆道徳心の欠如以外に、爆弾テロの警戒もしなければならないとしたら、タイはけっして幸せな国ではない。
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