寝ぼける
ドアのチャイムが鳴ったような気がした。
おおかた朝刊が届いたのだろう。
そう思って、寝ぼけまなこでドアまで新聞を取りにいく。
ついでにドアを開けて外をながめてみた。
ちょうど配達員がバイクで帰るところだった。
空はまだまっ暗だ。
なんだか新聞がずいぶん薄くなったような気がする。
おおかた安倍プーチン会談の特集でもあって、ほかの記事が手薄になったものだろう。
新聞も斜陽産業だからなと納得する。
べつに不審にも思わず、新聞をつかんでベッドにもどると、またドアのチャイムが鳴った。
出てみると新聞の配達員だ。
わたしがドアを開けたのを見てもどってきたらしい。
今月分の集金をいいですかという。
おい、何時だと思ってるんだよ。
こんな夜中に来るやつがあるかと不満顔をしてみせたものの、せっかくだし、払わなければならないものは払ってしまうほうがいい。
彼が帰ったあと、寝っころがって新聞を読む。
やけに映画の記事が多いなと、まだこのときまで異常に気がついてない。
そのうち眠くなってまた寝てしまった。
うとうとして、1時間か2時間後に目をさました。
ふつうならもう明るくなっているはずなのに、まだ外はまっ暗だ。
さすがにおかしいと気づき、時計を見ると7時である。
朝の7時なら明るくなっていないはずがない。
つまり寝ぼけて昼夜が逆転していたわけだ。
新聞の集金人は暗くなった直後の夕方にやってきて、わたしが読んだのは夕刊だったというわけだ。
こんなことは初めてである。
ボケが始まったんじゃないか。
「シャイニング」という映画の中に、小説家の書く文章を彼の奥さんがのぞいてみたら、意味のない単語の繰り返しで、奥さん愕然というシーンがあった。
わたしのこの文章もそうなっていないだろうか。
近所で殺人があったら、あの新聞の集金人は警察に、わたしのことをヤク中毒みたいですよと証言するな、きっと。
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