雪まつり/詩人たち
更科源蔵の「北海道の旅」を読むと、北海道を訪れた文人墨客の多いのにあらためて感心してしまう。
グルメや温泉、ウインタースポーツ以外に、もうちっと高雅な趣味を求めたい人は、文学碑探索の旅でもこころざしたらどうだろう。
行ってきたばかりの小樽には、この土地出身の作家・小林多喜二の碑があるというし、有名な函館の立待岬には、石川啄木のカニとたわむるのほかに、宮崎郁雨と砂山影二の歌碑がある。
日本人は歌碑が大好きだから、松山千春や美川憲一、石原裕次郎のもあるらしいけど、ここで話題にしているのは演歌ではなく文学のほう。
ところでこの砂山影二という作家の名前、わたしはぜんぜん知らなかったんだけど、ちょっと考えれば、もう名前からして啄木の影響下にあった人のようだ。
そう思ってググッてみたら、案の定、啄木に影響されて、若くして青函連絡船から身投げした詩人であるらしい。
ここにも孤独や絶望を求めて旅をした人がいた。
わたしも啄木の歌を愛したことでは人後に落ちないつもりだけど、いつのまにか老衰死といわれても文句のいえない歳まで長生きしてしまった。
でも啄木だって若くして結核に冒されなかったら、無責任に借金をかさねて、60までくらいは長生きしたかもしれない。
他人を死に追いやるような罪作りをしてないだけ、わたしのほうがマシだ。
千歳空港から札幌までは快速のエアポート・トレインが走っている。
今回の旅では、わたしがそれに乗ったのはもうたそがれ時分だった。
列車はぴかぴかでスムースだし、車内にはスノーボードをかかえた欧米人のグループもいて、啄木の時代のおもかげは探そうにも探せない。
窓の外はどうか。
新札幌の手前で、ほんの短時間だけど、雪におわれた雑木林の続く山あいの景色が広がった。
じっと無我の境地でそれをながめる。
雨に濡れし夜汽車の窓に映りたる山間の町のともしびの色
たちまちこんな歌が思い浮かぶ。
いじけた性格を天命とあきらめて、失意のままに旅をすれば、まだまだ啄木の世界はいたるところに見出せるものである。
あまり前向きばかりで生きないほうがよい。
34年前の旅では、当時もわたしはうしろ向きだったから、旅の途上に列車の中で思い出した啄木の歌は多かった。
真夜中の倶知安駅に下おりゆきし女の鬢の古き痍あと
空知川雪に埋れて鳥も見えず岸辺の林に人ひとりゐき
ごおと鳴る凩のあと乾きたる雪舞い散りて林を包めり
そのとき稚内から札幌まで乗った列車では、とある駅で、夏は耕地になるらしい広い雪原の上をぽつんと歩く女子中学生を見た。
彼女はどこかべつの町にある学校まで列車通学をしており、授業を終えて自宅に帰る途中だったようだけど、前方の集落までは3キロぐらいありそうだ。
吹雪がきたら通学の途上に遭難ということはないのだろうかと、つい心配してしまうのは、わたしが都会から来た旅人だったせいだろうか。
啄木ならばきっと歌を詠んだに違いないけど、凡人のわたしはつまらぬ心配をしただけだった。
ところで「北海道の旅」は北海道を訪れた作家の索引みたいなところがあるのに、宮沢賢治のことがひとことも出てこない。
オホーツクや噴火湾について書かれたあたりを仔細に検分してみたけど、賢治のケの字も出てこないのである。
そういえば著者はアイヌ研究者であるというのに、このブログでも取り上げたことのあるアイヌ作家の知里幸恵も出てこない。
だからケシカランというつもりはないけど、賢治も幸恵も、その資質からすれば源蔵さんが目をつけないはずはないと思えるのにと、ちょっと意外だった。
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コメント
おはようございます。
またまた一致です。
私も啄木にのめりこんでるひとりでございます。
失礼ですが、なんかうれしいです。
投稿: みさまじんぐ | 2017年2月20日 (月) 08時26分
でも青函連絡船から飛び込むのは止めましょうね。
投稿: 酔いどれ李白 | 2017年2月20日 (月) 10時33分
台風で沈没いた時の青函連絡船の洞爺丸に中三のクラスメートのお母さんが乗っていたそうです。本人に確認したわけではないのですが、もし、そうだとすると、厳しい境遇にあったわけなのに、誰にも涙を見せずに成長した事に敬意を表せずにはいられません。
ハンドルネーム、替えました。
投稿: 女音恋音 | 2017年2月20日 (月) 17時37分
ひとこと説明しないとハンドルネームの読み方は、部外者にはわからないと思います。
ねえ、ジョオン・レンノン君。
彼の歌では「僕はセイウチだ(I'm the Walrus)」って曲が好きです。
投稿: 酔いどれ李白 | 2017年2月20日 (月) 23時38分
今、「恋する二人」を練習しています。みんな、当時のファンはラジオやレコードで何百回、何千回となく聴きました。
ダソク・僕は啄木は、写真きり思い浮かべられません。写真の顔では喫茶店内での立原道造が好きです。
投稿: 女音恋音 | 2017年2月21日 (火) 05時31分
わたしは皮肉屋ですから、つねに作家と作品はべつの視点でながめています。
啄木の歌は好きだけど、本人はあまり尊敬できる人じゃなかったみたいですね。
投稿: 酔いどれ李白 | 2017年2月21日 (火) 09時35分