またレッドタートル
以前にこのブログでも取り上げたことのある「レッドタートル」というアニメを観た。
それ以前に予告編を観たことがあって、ディズニーの3Dや、ジブリアニメとも異なる、あっさりした水彩画ふうの背景や、いたって簡略化された人物などが気になっていたアレである。
水彩画ふうなんて説明をすると、ジブリの「かぐや姫の物語」を思い出す人がいるかもしれない。
ここから先はわたしの個人的主観になるので、同調してもらわなくてもいっこうにかまわないけど、かぐや姫のほうが登場人物のキャラや動きにしても、どうしてもジブリの呪縛から逃れられないのに対し、レッドタートルのほうは完全に日本アニメから脱却した個性的な作品になっている。
日本公開にはジブリも関わっているらしいけど、実質的な監督はマイケル・デュドク・ドウ・ヴィットというオランダ出身のアニメ作家で、ジブリ嫌いのわたしでも受け入れやすい映画なのだ。
じっさいに見てみると、最近のアニメにはめずらしいくらいシンプルな作品で、逆説的に聞こえるかもしれないけど、シンプルすぎて意味がよくわからないくらい。
ストーリーそのものは単純である。
難破して絶海の孤島に打ち上げられた若者が、島で出会ったウミガメの化身である女性とひととおりの人生を経験したあと、年老いて死んでしまい、女性はふたたびウミガメにもどって海に帰っていく、それだけの話である。
音楽と波や風のような自然音以外に、セリフはひとつもなく、あとは観る人が勝手に考えなさいという映画なのだ。
最初は浦島太郎みたいにカメの恩返しかと思ったけど、映画を観るかぎり、若者には復讐されることはあっても、恩返しをされるいわれはない。
これはいったい何を象徴しているのか、なんの寓意なのか。
意味がわからないとはそういうことだ。
理屈はつけようと思えばいくらでもつく。
いくらでも理屈をこねられるものに、あえて自説が正しいといっても始まらないから、ここではあくまで参考意見として、わたしの見解を。
随所にあらわれる満点の星空や、カニや小動物たち、そして若者が海の中でウミガメといっしょに泳ぐシーンなどは、天然のままの大自然を賛歌しているように思えるけど、よく観ると弱肉強食のひじょうに残忍な部分も描かれている。
どうもたんなる自然賛歌ではなさそうだ。
若者は文明社会にもどろうと、筏を作って何度も海に出る。
ところがそのたびにウミガメに妨害されてしまう。
怒った若者は海岸でこのウミガメをひっくり返して殺そうとする。
しかしとちゅうで気が変わって同情心を起こし、今度はなんとかウミガメを助けようとする。
助けられたウミガメはその後美女に変身して、彼の伴侶になるんだけど、いちどは殺されかかった相手を愛するなんて、いくら寓話だとしてもつじつまが合わないのではないか。
つまんないことにこだわってやがるなといわれるかもしれないけど、わたしだって細部にこだわるつもりはない。
ただ、全体としてみても、これはストーリーをうんぬんする映画ではないんじゃないかということだ。
この映画を観たついでに、同じアニメ作家が作った短編アニメをいくつか観たけど、その中に「父と娘」という作品があった。
これは幼いころ父親と別れ別れになった娘が、老婆になったある日、ふたたび娘に返って父親と再会するまでを描いた8分程度の短編である。
「ドナウ川のさざなみ」の音楽にのって、単純な線と水彩で描かれた物語が、物語そのものまで一筆書きのように簡略化して描かれており、なぜ父親と別れることになったのか、どうしてまた再会したのかという説明はいっさいない。
それでいて観ていてじつに切ない感傷におそわれる。
中国に黄粱の一炊ということわざがある。
ひとりの人間の一生におよぶような長い夢を見たあと、目を覚ましてみたら、まだ寝るまえに火にかけた鍋のアワが煮えてなかったというもので、人生のはかなさを意味しているんだそうだ。
意味がちがうけど、「レッドタートル」も、無人島に打ち上げられた若者が、死ぬ寸前に見た長い長い幸福な夢だったといえないだろうか。
夢だと考えれば矛盾のあるストーリーも、みんな納得できてしまう。
そんないいかげんなというなかれ、最後の最後になって、正義の味方が都合よく勝利をおさめる最近の米国映画よりよっぽどマシだ。
人生の終わりのほんのひとときでもいい、いっさいを投げ打って、画家のゴーギャンのように、絶海の孤島で癒されたいと願う人はきっといるはず。
だからこの映画は、人生に疲れ果てた現代人の夢ともいえるのだ。
癒されたいと願うこころに、かならずしもストーリーは必要ないのである。
ところでわたしもまた西表島に行きたくなってきた。
わたしもだれもいない海岸でまどろんで、この映画の主人公のように、長い幸福な夢を見たいと思う。
「レッドタートル」は、ホント、わたしのために作られた映画といってよい。
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