訃報
となりの農家のおじさん、いつのまにか亡くなっていた。
なかなか腕のいい農民で、庭から続く農地に四季折々いろんな作物がなるのを、わたしの部屋のベランダからもながめることができた。
その庭に咲く花をこのブログでも紹介したことがある。
何年かまえには、認知症を患っていたこの家のおばあさんも亡くなっていた。
本人はいくつぐらいだったのか、わたしとあまり変わらないように見えたけど、いつも青いつなぎを着て、もくもくと農作業にはげんでいる人だった。
彼も生涯独身のままで、家族もいないまま亡くなった。
亡くなったことを聞いてから、ちょっと庭をのぞいてみたら、ほんの1、2週間まえなのに、もう家屋の周囲は草ぼうぼうで、廃墟のように荒れ果てた感じ。
夏ミカンがたわわに実をつけ、葉のあいだに香りのいい白い花がちらほら。
ぬしのいなくなったビニールハウスがむなしく風雨にさらされていた。
部屋に帰って、死ぬ瞬間というのはどんな感じなんだろうと考える。
考えているうち眠くなり、寝ているうちに夢を見た。
お風呂に入っている夢で、そこでまだ死ぬ瞬間の続きについて考えていた。
湯船のふちに頭をのせ、ぐーんと体をのばして目をつぶる。
そのうち後頭部にびりりと、金縛りが始まるときのような衝撃があり、そのまま目の前がまっ白になってゆく。
ああ、これがそうか、いまオレは死んでいくんだなと思う。
でも数秒後には必死で目をこじあけていた。
金縛りをなんとかくいとめ、そこにいつも通りのわたしがいた。
たぶん本家本元のわたしはこのとき死んでいたんだろう。
いまいるわたしは分身で、まだしばらくは現実の世界で生き続けなくちゃいけないのだ。
どこかべつの世界で、明日の朝には風呂の中のわたしの屍体が発見されるのではないか。
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