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2017年6月 1日 (木)

爆雷

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もう何度もテレビ放映されているけど、ちょいとまえに「眼下の敵」という戦争映画がまた放映された。
現在の視点で観るとそれほど感心しないつまらない作品だけど、録画してあったので観るともなしに観ていたら、忘れかけた思い出がよみがえってきた。
わたしも海上自衛隊にいたことがあって、この映画のように爆雷を投下したことがあるのである。
ただし、そこはそれ、誇張されたハリウッドの劇映画と現実ではいろいろ異なる点もあるので、ヒマつぶしに雑感を述べてみよう。
自衛隊の内幕をバラしても、なにしろ半世紀もまえの話だから、いまさら機密漏洩の罪にも当たらんだろ。

自衛隊が発足したころは、まだ日本は自前の艦船を持つ余裕がなく、ほとんどは大戦中の米軍のお下がりだった。
「眼下の敵」は米軍のフリゲート艦と、ドイツのUボートの死闘を描いているけど、わたしが入隊したのは、このフリゲート艦と同型の駆逐艦が、まだ教育隊で実習艦として使われていたころである。
当時の自衛艦の主力は、「しきなみ」や「てるづき」、「あまつかぜ」などで、自衛艦に詳しい人なら、こうした艦名をあげただけでおおよその時代がわかってしまう。

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わたしかはじめて乗り込んだ自衛艦は「しきなみ」といって、前後あわせて3基の3インチ砲台と、投下型、発射型の爆雷以外に、ヘッジホッグ、短魚雷、長魚雷などを積んでいて、兵器は映画の中のフリゲート艦よりだいぶ近代化されていた。
2番目の写真が「しきなみ」だけど、中部から後部にかけての甲板に「オランダ坂」と称する傾斜がついている。

映画には対潜兵器として爆雷しか出てこない。
そして水中で爆発するたびに、派手すぎるくらい大きな水柱が上がる。
このへんは映画の最大の見せ場ではあるし、映画的効果のためにやむを得なかったと納得しておこう。
新兵だったわたしは、両国の花火でも見物するような気分で期待していたんだけど、じっさいには訓練であれほど水柱が上がることはめったになく、ほとんどの爆雷は水深のある場所で爆発させるので、ずしーんという衝撃だけで終わることが多かった。

映画の中に、爆雷を投下するとき、兵士が誤って指を切断してしまうシーンがあった。
艦の後部に爆雷投下機があって、ドラム缶のようなかたちをした爆雷が、レールの上をすべって海に落下する。
このとき不注意にレールの上に手を置くと危険ということは、新兵のころ何度も先輩から注意されていた。

ところがじっさいにそんな事故を目の当たりにしたことがある。
事故を起こしたのは先輩の海曹だったけど、映画とまったく同じ状況だった。
しかし当時もいまも非常時ではなかったから、たったひとりの事故のために訓練は中止され、ケガ人を陸上の病院に運ぶために港に引き返した。
死者をひとりも出さずに南スーダンから撤収したと大喜びをしているがごとく、あのころから日本の自衛隊は、兵士にとってもやさしい軍隊だったのだ。

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