武州公秘話
まだまだ残暑はきびしいけど、秋の夜長はなにしよう。
今夜はヒマつぶしにネットの青空文庫で、谷崎潤一郎の「武州公秘話」を読んでいた。
小説というのは縦書きという先入観のあるわたしには、横書きの青空文庫はひじょうに読みにくいんだけど、それでもさすがは大谷崎の小説で、一気呵成に読み終えて、退屈をまぎらわすには好適。
谷崎潤一郎の作品には、古い文献から説き起こして、いつのまにか小説世界に導かれるという作品が少なくない。
この作品も妙覚尼という尼さんが書いた「見し夜の夢」という文献と、武州公に仕えた坊主の「道阿弥話」というふたつの文献が下地になっている。
もっともこれは小説のテクニックで、このふたつの文献がじっさいに存在するのかどうか、いきなり読み始めたわたしにはわからない。
たぶん存在しないんだろうと思うけど、そんなことはさておいて。
読み始めた当初は、いくらか偏執狂ぎみの主人公を描いたまじめな小説かと思ったけど、読み進んでいくうち、これって作家はユーモア小説のつもりで書いたんじゃないかと思えてきた。
最後につけ足された解説は正宗白鳥で、シリアスな作品であるとほめている。
エラい作家がほめているものに異論をとなえるのは勇気がいるけど、わたしは物語の後半で、ひとりで笑ってしまった。
谷崎潤一郎がシリアスな作品であるとほめられて、嬉しかったかどうか知らない。
そのくらいこの小説には奇想天外で、人をくったところがある。
あんがい作者も読者をひっかけるつもりで、ニヤニヤしながら書いていたんじゃないだろうか。
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