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2017年12月 5日 (火)

盲目物語

昨夜は青空文庫で、谷崎潤一郎の「盲目物語」を読んでみた。
ひらがな多用で、ひじょうに読みにくい文章だ。
新人類のわたしにはちとまだるっこしいけど、ひらがなが多いというのは、平安時代の女流作家の文章みたいである。
そういえば全体的に女性的な文章で、作者の意図もそのへんにあったのかも。

内容は戦国時代のお話で、織田信長の妹で、そのころ絶世の美女とうたわれたお市の方に仕えたあんまのひとり語りである。
お市の方は最初は備前の浅井長政に嫁ぎ、彼が信長に滅ぼされると、つぎに越前の柴田勝家のもとに嫁ぎ、最後は豊臣秀吉に攻められて亭主とともに死んだ、ということはこのブログに書いたことがある。
歴史小説として読むとおもしろいけど、ここでは視点を変えて、失恋した男の悲哀ということに的をしぼってみよう。
わたしも恋愛戦線に屍累々というタイプなので、その男の気持ちがよくわかるのだ。

男というのは、若いころ木下藤吉郎といった豊臣秀吉のことで、彼は織田信長の部下だったから、とうぜんお市の方のことを知っていた。
しかし彼は自分がイイ男でないことを自覚していたから、信長が生きているあいだは、とても主君に向かってその妹を嫁にくれとはいえなかった。
信長が本能寺で殺されると、なにしろ殿の仇討ちにいちばん功績のあった部下ということで、ようやく彼の出番が来る。
彼にも未亡人になっていたお市の方に求婚する権利ができたわけだけど、ここで秀吉の前に立ちふさがったのが、やはり信長旗下の猛将柴田勝家。
こうなるとどっちを選ぶかという権利は未亡人のほうにある。
イケメンでなかったことはどっちもどっちだったようだけど、それまでのいきさつもあり、お市の方は勝家のほうを選ぶ。
秀吉はお市の方の亭主だった浅井長政を滅ぼすのに功があり、なおかつ信長の命令で彼女の幼い息子を誅殺しているのだ。

いかに主君の命令とはいえ、自分が愛している女性の息子を手にかけるなんて。
いや、そればっかりは誰かほかの人間におおせくだされと、秀吉もいちどは命令を拒否するんだけど、しかし相手は北朝鮮の正恩クンにひけをとらない短気な暴君の信長だ。
そうか、そうか、おまえもエラくなったもんだなと信長にへそを曲げられ、とうとう彼はお市の方の恨みをかうのを承知の上で、泣く泣く子供を処分する。
あまり世間から同情されない秀吉であるけど、この部分にかぎってはわたしは彼に同情してしまう。

秀吉はジャパニーズ・ドリームを体現したひじょうに優秀な男である。
そんな男が、上記の理由で、自分が好きでたまらない相手をほかの男にとられる。
ああ、いまこの瞬間に、彼女はあの男に抱かれているのかと妄想する苦しみ。
わたしにとっては、このあたりが小説のハイライトだ。

それでも秀吉はじっと耐えた。
見ていろ、オレはあいつを滅ぼして、いつかかならずお市の方を手に入れてやる。
その言葉どおり、まもなく彼は勝家を攻め滅ぼしてしまう。
もっともお市の方までいっしょに死んだのは彼の誤算だったけど。

「盲目物語」では、あんまの口を借りて、このあたりの心理描写がねちねちと描かれる。
ご存知のとおり、秀吉は母親と瓜二つのその娘茶々を嫁にして、積年の思いを遂げるのだけど、げに男の執念は恐ろしい。
わたしの場合は、一方的にふられておしまいで、執念を発揮するヒマもなかったワ。

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