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2018年7月12日 (木)

第七の封印

日曜の夜はBSでバレエやオペラを放映する。
バレエはまだしも、オペラにはあまり興味はないんだけど、このあいだのそれはイングマール・ベルイマン監督の映画 「秋のソナタ」 をもとにしたオペラだというので、念のため録画してみた。

わたしはもとになった映画のほうは観たことがある。
ベルイマン監督の映画は、どれもひじょうに哲学的で、難解でもあるんだけど、「秋のソナタ」 については、母と娘の確執を描いた現代劇で、ぜんぜんおもしろくなかったと正直に告白しておこう。
最後まで観るのが苦痛で、途中で放り出したので、もちろんオペラのほうも途中で放り出した。
だいたい日ごろからオペラなんてものには縁がないので、ここではわたしが最後まで観通すことのできた 「第七の封印」 という映画について書くことにする。
いえ、けっして感動したとか、素晴らしかったなんてエラそうなことをいうつもりはないんだけどね。

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「封印」 のほうは「ソナタ」 より古い作品で、十字軍の遠征から帰国する途上の騎士が、死神と出会う場面から始まる。
迎えにきたのかと問う騎士に、そのとおりだと死神は答える。
死神を演じている役者は、これは1956年の映画だからCGではないし、地のままの顔で不気味な雰囲気がいかにも適役(1枚目の画像)。

騎士がちょっと待ってくれというと、だれでもそういう、待つことはできないと、死神はさすがに自分の仕事に忠実だ。
なんとか時間稼ぎをしようという騎士は、相手にチェスの試合を申し込む。
死神というのはむかしからチェスが好きなんだそうだ。

こうして彼らがチェスをしているあいだに、同時進行というかたちで、騎士は旅を続ける。
つまり時間稼ぎをしている騎士と、時間稼ぎのおかげで先に進める騎士の、ふたつの設定が同時に描かれるわけで、話はなかなかややこしい。
難解であることはまちがいないけど、それでもこちらの作品には、まだわたしを飽きさせない見どころがたくさんあるので、最後まできちんと観ることができた。

見どころというのは、当時の旅芸人の生活ぶりや、因習にとらわれた農村のようす、疫病を怖れる人たち、魔女の疑いをかけられて火あぶりにされる娘など、暗い中世の時代風俗がリアルに描かれていたこと。
しかしそういう見どころは、ストーリーとして重要ではなく、観念的なものの積み重ねとして描かれる。

わたしは以前にマルタ島というところに行って、教会の壁に斬首されるヨハネの縁起でもない絵がかかげられているのを見たし、また街のあちこちに骸骨のような、死をモチーフにした飾り物が多いのに気がついた。
これは当時の騎士たちの、死と隣り合わせの過酷な状況を物語るものだそうだ。
イスラム教徒たちとの戦いからもどる騎士も、当然多くの死を見てきたはずで、映画のなかの彼は神の存在に疑問をいだいている。
わたしみたいな凡人でさえ、東北大震災の現場でそう感じたくらいだから、これは外国でもよくある疑問なのだろう。

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この映画のなかに神はいちども姿をあらわさないけど、主要登場人物である死神の姿で、あるいは行倒れの巡礼、疫病払いの行列、火刑に処される娘、ペストで死ぬ男など、死の象徴はいたるところにあらわれる。
姿を見せない神をなんとか信じようとする騎士に対して、そんなものはおりませんと、彼の従者はあくまで冷静だ。
うん、この従者の考えはわたしに似ているな。

芸人一座の座長と鍛冶屋の女房の浮気という、民話のような寸劇をはさんで、騎士はようやく妻の待つ自分の城に帰り着く。
古い城の食堂で騎士と同行の人々が食事をしているところへ、チェスの決着をつけた死神があらわれる。
神も仏もないものかと、苦悶する騎士。
最後まで、そんなものはありませんの従者。
ベルイマン監督は、古い宗教観と無神論者を対比させるつもりでこの映画を作ったのかもしれない。
わたしもすこしまえに、いくつかの法事が重なって、儀礼ばかりにこだわるそのやり方に、無性に反発をおぼえたばかりだ。
これはもしかしたら、わたしみたいな偏屈のための映画なのかも。

まあ、そんな手前勝手な解釈はやめておこう。
暗い一方の映画のなかで、騎士と別れて別行動をとる芸人夫婦は、明るい未来を象徴しているように思えるけど、これもその気になれば理屈はいくらでもつけられる。
しかし、いくら立派な理屈をこねても、どうせわたしには1円にもならないし、そんなものを無理にひねくり出さなくても、わたしは映像を目で追うだけで満足してしまったのだ。
「第七の封印」 はそういう見方、つまりひとつひとつの出来事を無理に意味づけなくても、全体として無神論者の代弁をしてくれる映画のように思えてしまう。

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映画の最後に、旅芸人の妄想として、死神に先導されていく人たちが映る。
興味をもってわたしなりにメンバーを分析してみたけど、先頭に大鎌を持った死神が立ち、あとは騎士、従者に使われている娘、従者、鍛冶屋、鍛冶屋の女房、最後尾に竪琴を持った芸人一座の座長という順番らしい。
全員が異なるポーズで、踊るようにひかれていくというのが印象的だった(添付した3枚目の画像)。

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