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2018年8月31日 (金)

ニュールンベルグ裁判B

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最近の日本では、障害者に対する過去の強制不妊手術が問題になっている。
その是非はともかくとして、障害者や薄弱者に対する迫害は、過去にどの国にもあった。
だからナチスの断種(去勢)法はわるくないと力説するのは、熱血弁護士のマクシミリアン・シェル。

最初に証言台に立った老教授、彼は大学でヤニングの教師をつとめた人だけど、ナチスによってドイツの司法制度が崩壊していくさまをたんたんと説明する。
自分はそれに危機感を感じて教職をしりぞいたと、この教授の説明はしごく良識的なものだ。
しかし熱血弁護士は、この教授がそれ以前に、みずからすすんでナチスに入党したではないかと詰め寄る。
当時のドイツ人ならだれでもそうするよりほかはなかったと教授は弁解するんだけど、ああ、そうなんですかと、弁護士は手持ちのメモをわざとらしく破って捨てる。
わたしのいいたいことはこれだけですを強調するしぐさのようである。
つまり裁判というものは、いかに裁判官に自説を印象づけられるかで決まってしまうものらしい。

みかねた軍人検事のリチャード・ウィドマークが、異議ありで割り込み、熱血弁護士と取っ組み合いに・・・・はならんけど、このへんのやりとりは早くも手に汗にぎる迫力だ。

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軍人検事は証人として、断種政策の犠牲者となったユダヤ人を法廷に呼ぶ。
このユダヤ人を演じたのが、ゲイじゃないかと噂された米国の人気俳優モンゴメリー・クリフトで、わたしの映画ライブラリーの中には、彼の出演作として「赤い河」、「地上より永遠に」、「荒馬と女」などがある。

ほんとにゲイだったのかどうか、ネットをいろいろ調べてみたけど、はっきりそうだと書いた記事はひとつも見つからなかった。
でもマッチョのロック・ハドソンでさえゲイだったのだから、わたし個人的にはモンティ(M・クリフトの愛称)もそうだったろうと思っている。
断種された被害者にゲイ役者を当てるというのは、適役といえなくもないではないか。

軍人検事が被害者を目のまえに置いてナチスの非道を訴えれば、熱血弁護士は被害者が精神的に不安定な薄弱児であることを暴露して、冒頭の、どこの国にも断種法はあったと反論するのである。
しかも彼がひきあいに出した法令は、アメリカの法学者が書いた文章だったから、軍人検事もたじたじだ。

Nbe11

ここでは弁護士に追及されて、じょじょに自分の知恵遅れを露呈するモンティの演技が圧巻だ。
どことなく落ち着きがないものの、最初はまともに受けごたえしていたのが、弁護士の執拗な追及に耐えきれなくなって、顔をゆがめて絶叫するところは、キューブリックの「博士の異常な愛情」で、狂気を発するスターリング・ヘイドンの司令官と双璧だな。

この間、B・ランカスターふんする被告のエルンスト・ヤニングは、あいかわらずひとこともしゃべらない。
しかし拘置所にもどると、共闘しましょうとささやく他の被告に、きみに対等の口を聞かれるおぼえはないと一喝するから、その心情はあるていど理解できる。

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スペンサー・トレイシーの田舎判事は、裁判のあいまにコンサートに行ったり、そこで紹介されたドイツ人貴族の女性と食事をしたりする。
この女性役が、リリー・マルレーンの歌で知られるマリーネ・ディートリッヒだけど、彼女は現実にナチスを嫌って米国に亡命したドイツ人なのだ(残念ながらこの映画は、色気の介入する余地のないまじめな映画なので、彼女の百万ドルの脚線美は披露されない)。

彼女は田舎判事にいう。
わたしにはすべてのドイツ人が怪物ではないことを、アメリカ人に知らせる義務があります。
わたしの夫はドイツ軍の将軍でしたけど、ヒトラーを嫌っていました。
おかげで罪をこうむって、第三帝国の法律で粛清されました。
勝者による報復であったことはあきらかですと、目下ナチスの被告を裁いている最中の田舎判事にはぐさりとくるようなことをいう。

そして被告のヤニングについては、立派な人ですと支持をする。
ものごしは丁寧だけど、彼女もアメリカ人の判事に好感はもってないのである。
だから彼女の丁寧さはあくまで京都人のそれで、内心を隠したまま、冷ややかにコーヒーをそそぐのだ。

Nbe12

彼女だけではない。
映画に登場するドイツ人たちは、悪いことばかりじゃなかったと、微妙な言い方でナチスを擁護する。
あの時代は食べ物にも事欠いていました。
でもヒトラーのおかげで仕事が増えました、道路も整備されましたなどと。
こんなドイツ人の話ばかり聞いて、判事のほうもいくらか影響されないわけにはいかない。

そんなこんなで、映画の前半は熱血弁護士の優勢勝ちというところだけど、さて後半は。
というわけで、このブログネタはまだ続きます。

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