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2018年9月 1日 (土)

ニュールンベルグ裁判C

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なんとしても第三帝国のもと法務大臣の罪を問いたい軍人検事のリチャード・ウィドマークは、つぎにフェルデンシュタイン事件の一方の当事者をかつぎ出した。
この事件は、あるユダヤ人がドイツ人の少女を誘惑して、イヤらしいことをしたというもので、当時はアーリア人(ヒトラーが勝手に定めたドイツ人のこと)と他の民族との混交は法律で禁止されていたから、このユダヤ人は問答無用で死刑になった。

ところが被害者であるはずの少女にいわせると、状況はぜんぜん異なる。
少女とユダヤ人は年の離れた、ただの仲のよい隣り同士で、あちらの国だから、たまにはほっぺたにキスをしたり、ひざに乗ったりする。
それだけの関係だと主張したにもかかわらず、ユダヤ人は処刑されてしまった。
このときの裁判で死刑判決にOKを出したのが、B・ランカスター扮する、もと法務大臣のエルンスト・ヤニングだったのである。

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軍人検事は、もうそんな事件のことは思い出したくないという、すでにいいトシのおばさんになっている少女を説き伏せて、証言台に立ってもらう。
このおばさんを演じたのは「オズの魔法使い」の子役であり、「スタア誕生」のミュージカル・スター、ジュディ・ガーランド。
わたしには子役時代の可憐な少女か、スリムなダンサーのイメージしかないんだけど、この映画ではあごに肉のついた貫禄のあるおばさんになっていた。

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なにもイヤらしいことはしていません、あなたの言わせたいことはしていませんと、おばさんは必死で説明をするんだけど、ここでも熱血弁護士の反論は容赦なく、なにがなんでもワイセツ事件を印象づけようとするものだから、ついに彼女は泣き出してしまう。
そのときだ。
これまでずっとだんまりを続けていたヤニングが、すっくと立ち上がって、叫んだ。
「いいかげんにしろ」
「何度同じことをいわせるんだ」

この部分は映画「ニュールンベルグ裁判」の最大の山場で、劇的効果は絶対満点、耐えに耐えたヤクザの健さんが、ついに相手の組に殴り込むような痛快感がある。
考えてみると、ユダヤ人が死刑になった裁判のとき、まだ少女だったおばさんは、ヤニングのまえで同じことを何度も訴えたはずなのだ。

このあとは急転直下だ。
ヤニングはすべての罪を認めてしまう。
被告席に座った同僚の罪をあばき、そんな同僚たちに協力した自分の罪をあばく。
ドイツ人が大量虐殺を知らなかったはずがない、それを知らなかったとしたら、自分たちはいったいどこにいたのか、わたしは愛国のために盲目になっていたと、彼の悔恨はとどまるところを知らない。
この場面、「独裁者」におけるチャプリン顔負けで、時計を測ってみたらヤニングは5分半近くもひとりでしゃべりっぱなしだった。

被告が罪を認めてしまったら、裁判はふつうそこで終わりである。
映画もここで終わったら、シロクロのはっきりした映画ということで、観衆は喜ぶかもしれないけど、作品の価値はいくぶんか目減りしたかもしれない。

逆に追いつめられることになった熱血弁護士マクシミリアン・シェルはどうするか。
アカデミー主演男優賞を獲得するには、ここでひっこんではいけないのである。
彼はニュルンベルク裁判を、もっと普遍的な、全人類の罪という方向に転換させるのだ。
映画の中にユダヤ人の死体が山をなすホロコーストの実写映像がはさまるけど、これを許したのはヤニングひとりの責任ではなく、傍観していた世界中の人々にあるのではないかと、彼は法廷で力説する(彼の演説も3分以上ある)。
これは、たとえば北朝鮮の無慈悲な独裁者を放置している、現代に生きるわたしたちへの問いかけでもあるだろう。

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彼らがこんな演説をぶっているあいだにも、時代は刻一刻と変化する。
田舎判事が判決を出すまえに、ソ連軍がチェコに侵入したという連絡が入る。
冷戦の始まりだ。
こうなるとドイツ国民を味方につけたいアメリカの立場は微妙なものになり、判決も情状酌量の余地やむなしということになってしまう。
映画では最後に被告全員に終身刑が下されるんだけど、これは数年後に保釈という暗黙の了解つきなのだ。

裁判が終わるとちょっと気の抜けた感じがある「ニュールンベルグ裁判」だけど、最後は理性や信念だけではどうにもならない現実を、わたしたちに突きつけて終わる。
わたしも長年映画を観続けてきたけど、これほど感動した作品はあまりないね。
やっぱり生きているうちに観といてよかった。

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