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2018年11月 4日 (日)

変人

「月と六ペンス」は画家のゴーギャンをモデルにした、サムセット・モームの小説である。
このなかに語り手である“わたし”が、人妻から家出をした亭主を家にもどるよう説得してほしいと頼まれる場面がある。
人妻にいわせると、家出の原因は亭主に新しい女ができたらしいとのこと。
他人の色ごとに首をつっこむのは気が進まないんだけど、よんどころない事情があって、彼はこの仕事をひきうける。

パリまで出かけて亭主に会ってみると、べつに女なんかおらず、亭主は画家になりたいから家出をしたんだという。
いささか調子が狂っちゃうけど、“わたし”は亭主が家にもどるよう説得しなければならない。

結婚したんだから、あなたには奥さんや子供を養う義務がありますというと、そんなこと知るかと亭主はにべもない。
あいつらは今まで楽をしてきたんだ、こんどは少しぐらい苦労をしてみりゃいい。
でも子供たちはまだ幼いんですよ、ちょっとひどすぎやしませんか。
世間にはそんな家庭はごまんとあるよ。
なに、親戚が金持ちだから、ほんとうに困ればそっちのほうで面倒をみてくれるさ。
世の中には家庭なんかより大事なものがある。
それは芸術だ、芸術だってわけで、常識的な説得はまるで通用しないのである。

この情け容赦のない亭主というのが、画家ゴーギャンをモデルにした主人公なんだけど、困ったことに、わたし(このブログを書いている本人)はこんな主人公に喝采を叫んでしまう男なのだ。
もっともわたしのほうはここまで非道ではないから、女房子供を悲しませるよりはと、独身をつらぬいたんだけど。
この小説を読んで思ったのは、たぶん天才というのは変人であるということなんだろう、少なくとも常識で測れないような。

こんなことを書く気になったのは、今日の朝刊についてきたGLOBE紙面の、スティーブ・ジョブズの伝記本についての書評を読んだからだ。
ジョブズといえばアップルパソコンの創設者で、伝記を書いたのはその娘である。
本人が死んでしまったあとに書かれた伝記を、たとえそれが肉親によって書かれたものであっても、まるごと信じるほどわたしは素直じゃないけど、ここに描かれているのは、やはり稀代の変人とされるアップル創設者そのもの(らしい)。

とりあえず買って読むほど熱意はないけど、いろいろ思うことがある。
変人でも成功すれば世間から称賛される。
反面、わたしみたいに箸にも棒にもかからない変人は、世間から馬鹿にされる。
同じ変人なのにどうしてと、忸怩たるおもいがあるけど、でも文句はいわないことにしよう。
あちら側の人だって、常識さえ持っていればすべての人が成功するとはかぎらない。
常識をそなえておりながら、運が上向かず、地団駄踏んでいる人も多いのだ。

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