ウィンチェスター銃73
「ウィンチェスター銃73」という古い西部劇があり、なかなかおもしろいという評判は聞いていたから、ライブラリーのなかからひっぱり出してみた。
この映画が作られた1950年ごろは、おそらくいくつかの傑作をのぞけば、かっこいいヒーローが悪人やインディアンと闘う、安物の西部劇が氾濫していたころじゃないか。
それなのにこの映画は評判がいい。
どうして評判がいいのか、確認しようというわけだ。
これもそうとうにむかし録画したものだけど、じっくり観るのははじめてである。
特製のウインチェスター銃を軸にして、親の仇をねらう主人公に、悪党たちや美女(わたしにはおばさんのイメージしかないシェリー・ウインタースの若いころだ)がからむ異色西部劇である。
監督のアンソニー・マンという人は、これ以前に「ララミーから来た男」なんて西部劇も作っているけど、これもラストシーンがしまらないのをのぞけば、なかなか味わいのある作品だった。
彼はほかにも歴史大作「エル・シド」などでおなじみの、まあ、巨匠といっていい人である。
巨匠と呼ばれるような人ならアメリカ・インディアンを、一方的に極悪非道の原住民としては描かなかったようで、たとえばジョン・ヒューストン監督の「許されざる者」では、牧場主がカイオワ・インディアンに執拗に襲われるけど、彼らには白人に奪われた肉親の娘を取り返したいという正当な理由があった。
ハワード・ホークス監督の、アフリカを舞台にした「ハタリ!」という映画には、マサイ族がちらりと出てくるけど、けっして無知な原住民という描き方はされてない。
「ウィンチェスター銃73」でも、登場するインディアンはまじめで強そう。
むしろインディアンにインチキ商品を売りつけようとする、狡猾な白人の武器商人が出てくるくらいだ(おれたちをバカにするのかって頭の皮をはがされちゃうけど)。
日本人と同じモンゴロイドで、共通の遺伝子をもつアメリカ・インディアンを、一級下の存在とみなす白人優位主義の映画に、わたしは強い拒否感を持っているのだ。
この点では「シャイアン」以前のジョン・フォードも、インディアンが登場する場面はクソである。
よけいなことはさておいて、「ウィンチェスター」の主題は白人同士の仇討ち物語である。
主人公のジェームス・スチュワートが、親の仇の白人を追跡する話で、悪漢でもマカロニ・ウエスタンのように、すぐに銃をぶっ放す単純なワルでないのがいい。
ヒロインのS・ウィンタースがまだおばさんではなく、若くてきれいなのもいい。
この若くてきれいなヒロインにいやらしい悪漢が迫るんだけど、悪漢でも最低限のモラルは持っていて、強引にベッドに押し倒したりしないのは、うん、これは残念というか・・・・
総じてこの映画では、拳銃をぶっ放すまえに会話があり、登場人物の人間性が、たとえ悪漢でもていねいに描かれている。
こういうところが目新しいので評判になったのだろうか。
不満があるとすれば、肝心の特製ウィンチェスターが、結末でとくに重要な意味をもたないこと。
タイトルにもつけるくらいだから、ぜったいにこの銃でなければ収まらないという結末にしてくれれば完ぺきだったのに。
映画の最後は、岩山でライフルを使った1対1の闘いになり、主人公が親の仇の悪党を射殺して終わりである。
このへんがもの足りない。
そこまでが異色でおもしろい西部劇なのだから、もっとひねった結末のアイディアはないだろうか。
主人公が危機におちいったとき、インディアンか騎兵隊が現れて、急場を救うなんて結末を考えてみたけど、これじゃスピルバーグの映画みたいで調子がよすぎる。
最後は主人公とヒロインが、悪党と対決することになり、運わるく主人公のほうが先に弾を撃ち尽くした。
ヒロインは特製のウィンチェスターを持っている。
しかしその銃には弾が入ってないはずである。
それを知っている悪党が、余裕しゃくしゃくで主人公に銃を向けると、入ってないはずのウィンチェスターから弾が発射され、悪党をノックアウトなんてのはどうだろう。
調子がいいのは同じじゃないかといわれそうだけど、これには伏線があるのだ。
映画のなかほどにインディアンの襲撃があり、いよいよ助かりそうもなかったら、辱めを受けるまえに最後の一発で自殺しなさいと、主人公がヒロインに拳銃を渡すシーンがある。
けっきょくふたりとも助かって、拳銃は無用の長物になるんだけど、その一発の弾丸を、お守りだと思って持っていなさいと主人公はいう。
その一発が土壇場になって効力を発揮するという結末はどうだ。
ウィンチェスターとコルトは弾丸を共有していたという事実が、このアイディアを支えている。
うん、ほんとわたしって天才だよな。
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