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2019年3月13日 (水)

白鳥の湖

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わたしが「白鳥の湖」の音楽を聴いたのは、ロックやジャズにあきたらなくなって、おずおずとクラシックを聴き始めたころだった。
ということは半世紀ぐらいまえか。
そのころのわたしはテレビもない貧乏暮らしをしていたから、もちろんバレエを観たわけではなく、レコードを通して聴いたのである(テレビはないくせにステレオはあったのだ)。

「白鳥の湖」が素晴らしいのは、バレエに興味がなくても、チャイコフスキーの音楽だけで純粋に交響曲として楽しめること。
しかし、もともとバレエの音楽として作曲されたものだから、やはり舞台といっしょに鑑賞するのがベストだ。
わたしは以前ナマの舞台も観たことがあるので、そうか、この重低音は悪魔が登場する場面だからなのかと、ステージとオーケストラボックスを同時に眺めて、いろいろ勉強になったものである。

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このバレエは、古典としても本命中の本命とされるバレエなので、それこそ世界中のバレエ団によって、さまざまな「白鳥の湖」が演じられており、多くのバレエ団がいろんなバリエーションを試みている。
あまり観たくないけど、なかには男のダンサーがチュチュを着て踊るものや、ヒマをもてあましたおばさんたちの「白鳥」もあるらしい。

テレビを購入し、インターネットの時代が来ると、あちこちでいろんなバレエ団の「白鳥」を観る機会が増えた。
おそらく現代の有名バレエダンサーで、これを踊ったことのない人はひとりもいないんじゃないか。
幸いなことにそうしたダンサーの演技は、いまではアンナ・パブロワからプリセツカヤ、シルヴィ・ギエムまで、 YouTube でたいてい観ることができる。

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とはいうものの、あらゆる映像を追いかけていられるほどわたしはヒマじゃない。
とりあえずこの2月18日に録画した「白鳥の湖」のことになるけど、これは英国ロイヤル・バレエ団のもので、調べてみたら、主役のオデット姫を演じていたのはマリアネラ・ヌニェス(3番目の写真)という人だった。
彼女はロイヤル・バレエ団のプリンシパルで、1982年生まれというから若い人ではない。
でもこれはやむを得ない。
プリンシパルというのはバレエ団の最高位だから、そこに到達するにはあるていど年季も必要だ。
ヌニェスさんの場合も、若くないかわり、ちょっとひ弱そうな王子さま役の手をとって、やさしくリードする、ベテランらしいおちついた演技が見ものだ。

Sl02

このバレエのいちばんのハイライトは、湖で王子さまが白鳥の化身たちと遭遇する場面だろう 。
月明かりの下で白いダンサーたちが、軍隊のマーチングドリルのように、踊りながら整然と縦よこに交差する場面は、チャイコフスキーの音楽とあいまって、ホント、幻想的としかいいようがない。

とはいうものの、ロイヤル・バレエ版では、わたしはちょっと失望した。
なぜだろうと考えるまえに、ことわっておくけど、前述のように、わたしはナマの舞台で「白鳥の湖」を観たことがある。
ナマで観るといちだんと素晴らしいかといわれると、そうでもない。
なにしろ生まれて初めてのバレエだったから、興奮して、いろいろ好奇心を満たすべきものがあって、感動しているヒマがなかったというのが本音。
こういう点では、ひとり静かに、じっくりと、何度でも繰り返して観られるテレビの録画番組のほうが、(わたしには)良し悪しをつけやすい。

Sl04

だから同じテレビ番組で比較するんだけど、ずっとむかしテレビで観た「白鳥」では、たしかにその幻想的なところに感動した。
ところが今回はそうではない。
むかしのほうはどこのバレエ団のものか、とっくに忘れてしまったので、あらためて比較するために、YouTube でロイヤル・バレエとはべつのバレエ団の映像を探してみた。
日本語、英語で検索すると、じつにたくさんの「白鳥の湖」が見つかるけれど、とくに作為もなしに、その中からたまたま選んだのが、スヴェトラーナ・ザハロワとロベルト・ボッレ(5番目の写真)の共演した、ミラノ・スカラ座版だった。

やっぱり感動の度合いがちがっていた。
バレリーナの技量についてエラそうなことはいえないから、わかりやすいところで比較すると、まず王子さま役の見た目がある。
ちょっとひ弱そうなロイヤル・バレエの王子さまに比べると、ミラノ版のボッレのほうは、イケメンぶりといい、風格といい、ほんとうに王子さまらしい堂々とした偉丈夫である。

でもまあ、見た目で比較したのでは、比較されるほうに迷惑だ。
ほかにも失望させる要素はいくつかある。
ロイヤル・バレエもミラノ版も、同じバレエを同じようにオーソドックスな振り付けで見せているのだから、ダンサーたちの配置や、映像化にあたっての微妙なカメラワークの違いもあるような気がする。
流れるような動きのとちゅうに、ちょっとひっかかるような瞬間があると、それだけで興ざめしてしまうものだ。
わたしってこういうことにかけては、けっこう神経質なのよね。

Sl05

このミラノ版を、高画質のでっかいテレビで観たいけど、残念ながらDVD画質のものしか売られてないみたい。
またそのうち、どこかのバレエ団の「白鳥の湖」が放映されることがあるだろうから、そっちに期待するしかないか。

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