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2019年5月 4日 (土)

ジゼル

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バレエに詳しい人から笑われてしまいそうだけど、「ジゼル」というバレエがある。
「白鳥の湖」を別格とすれば、これは「くるみ割り人形」や「眠れる森の美女」に匹敵するほど有名な古典バレエだそうだ。
わたしがそんなことを知らなかったのはやむを得ない。
なんといったって、わたしはまだバレエの勉強を始めたばかりなのだから。  

すこしまえにBSプレミアム・シアターで放映されたのは、マリインスキー・バレエによるこの舞台。
マリインスキーというと、世界一といわれるロシア・バレエの中でも、もっとも伝統的で由緒正しいとされるバレエ・カンパニーだ。
放映された舞台も、ロマンチックバレエの様式どおり、すねまでのチュチュを着た、いかにも古典らしいオーソドックスなスタイルだった。

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このバレエのあらすじを説明すると、中世ヨーロッパのある村に、ジゼルという踊りの好きな娘がいた。
彼女はアルブレヒトという若者と恋人同士だったけど、彼はじつは貴族の息子のかりの姿。
そうとは知らないジゼルが彼と楽しく過ごしていると、彼女に横恋慕する男がいて、アルブレヒトの秘密、彼にはべつの婚約者がいることまでみんなバラしてしまう。
ショックを受けたジゼルは憤死して、ウィリの仲間入りをすることになってしまった。
ウィリというのは結婚するまえに亡くなった乙女の亡霊で、恨みつらみを抱いたまま森の中をさまよっているのだそうだ。

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ジゼルのことを忘れられないアルブレヒトは、恋人のおもかげを求めて、彼女の墓のある夜の森へさまよい込んでくる。
そういう男は飛んで火に入る夏の虫、ウィリたちにオモチャにされて、死ぬまで踊らされることになっていた。
かっての恋人が踊らされて、疲れ果てて、あわやという場面に、ジゼルはウィリの女王のまえで、果敢にも彼の弁護を買って出る。
彼女の口ききのおかげでアルブレヒトは救われたものの、夜明けとともに彼と彼女は永遠の別れ・・・・
古典にふさわしいロマンチックな物語だけど、恐怖のホラー・バレエともいえる。

じつはわたしの録画コレクションの中には、アクラム・カーン振り付けの、このバレエがすでにあった。
ただ、この振付師の名前を聞いて、最初はいやな気がした。
この人はたしか現代バレエをもっぱらとする振付師で、わたしはどっちかというと、そういうとんがったバレエがきらいなのである。
でもひょっとすると、思わずナマつばを飲み込むくらい官能的という場合もあるかもしれないから、いちおう録画しておいたのだ。

そういうことで、新旧ふたつの「ジゼル」がそろったわけだから、この機会に有名な古典と、その現代版を比較してみようと思う。
まずはマリインスキーの古典ジゼルから(ここに載せた写真はかならずしもこの舞台のものではアリマセン)。

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マリインスキー版でジゼルを演じるのは、ディアナ・ヴィシニョーワ。
マリインスキーのプリンシパルで、踊りは保証書つきだけど、残念ながら顔がロボットみたいで、わたしの好みじゃないね。
おまえの好みなんか聞いてない?
これはわたしの個人的偏見に満ちたブログなんだけど。
アルブレヒト役は世界的に有名なダンサー、マチュー・ガニオで、彼はパリ・オペラ座のエトワールだから、この舞台では客演ということになり、こちらは文句なしのイケメン。

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このバレエはダンサーたちが死に装束で踊るゆいいつのバレエなんていわれているそうだけど、どんなものが死に装束なのか、バレエ初心者のわたしにはわからない。
それよりも花嫁衣装といったほうがわかりやすい。
マリインスキー版でも、ウィリたちは長めの白い衣装で、最初は顔に透明なベールをかけているから、これはもろウェディングドレスといっていい。
結婚できずに死んだ乙女たちの亡霊は、着たくて着られなかった花嫁衣装に未練をもって、その衣装のまま、いつまでも森のなかをさまよっているのである。

みんな同じ衣装だからまちがえることもある。
ウィリが暗躍する夜の場面になって、舞台のまん中にキツネのついたおばさんみたいなのが登場した。
てっきりこれが死んだジゼルかと思い、お化粧ひとつで女性はずいぶん変わるものだなあとあっけにとられていたら、じつはこれはウィリの女王を演じるべつのダンサーだった。

ここでひとつことわっておくけど、バレリーナというのは、女性として完璧なプロポーション、これは正しい。
しかし容貌は、厚いメーキャップでおおわれているから誤解しやすいだけで、美人の割合はそのへんのふつうの娘たちとそれほど変わらないものである。

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どうも容姿にばかり目が行くのがわたしの欠点だ。
しかしプリンシパルやエトワールに任ぜられるほどのバレリーナなら、その技量の上手い下手がわたしにわかるわけがないし、いちばんよくわかるのはわたし好みの顔かどうかということだ。
こういう点では今回の主役のディアナさんはちと減点。

彼女以外のダンサーに目をやると、たとえば昼間の場面で、物語にはとくに関係のない男女ペアのダンサーが踊るけど、このときのバレリーナははつらつとしていてわたしの好み。
夜の場面では、ジゼルの墓のまえで踊るウィリたちの中に、わたし好みの美人が何人かいた。
さすがはロシアのバレエ、人材が豊富で、彼女たちがおもて看板になる日を待とうという気になる。

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先にホラー・バレエと書いたけど、お墓のまえで大勢の幽霊が踊るバレエだからそう書いただけで、じっさいにはそんなにコワイ場面があるわけじゃない。
ウィリはみんなプロポーション抜群の美女ばかりだから、男のわたしはうっとりと見とれるばかりである。
いっそのこと、マイケル・ジャクソンの「スリラー」みたいに、墓の中からゾンビの集団みたいなのが出てくると本物のホラーになるのだが。

そういう刺激的な映画にマヒしているわたしとしては、「白鳥の湖」を観たあとでこれを観ると、たぶん物足りなさを感じると思う。
「ジゼル」の夜の場面は、(専門用語を使うのは気がひけるけど)ダンサーひとりのヴァリアシオンから、ペアで踊るパ・ド・ドゥに、その他大勢(コール・ド・バレエ)の群舞など、「白鳥」で王子さまとオデットが出会う湖の場面に、雰囲気がよく似ているのだ。
二番煎じとはいわないけど、ゆったりした古典バレエばかり観ていると、いつかもの足りなくなって、けっきょくとんがった現代バレエに行き着くのかもしれない。
ということで次項ではアクラム・カーンの「ジゼル」を観てみよう。

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