夏の夜の夢
すこしまえに録画した「夏の夜の夢」というバレエは、以前このブログに書いた「ル・ソンジュ」と同じシェイクスピアの原作をもとにしている。
ただ前者がパリ・オペラ座の作品で、きわめてオーソドックス、内容は「コッペリア」のようにご家族向けの楽しいバレエであるのに対し、後者はモンテカルロ・バレエによる現代解釈版で、18歳未満はお断りなくらい過激な作品であることがちがう。
うまい具合に対照的なふたつの「夏の夢」が揃ったから、ここで両者のスタイルを比較してみよう。
モンテカルロ版を観たとき、このバレエってどんな物語なのかとウィキペディアを調べてみて、なんだかややこしくてよくわからないと書いた。
今回はもうすこし気合を入れてその解説を読んでみた。
森のなかに妖精の王さまと女王さまが住んでいて、この夫婦はけん怠期でケンカばかりしている。
将来を案じた王さまは、仲直りをするために、パックという男の妖精に命じて、ひとめ惚れの花を取ってこさせる。
この花の匂いをかぐと、だれでも目のまえにいた人間を好きにならずにいられなくなるのだそうだ。
この花を使ってよりをもどそうというのが王様の魂胆だ。
ところがパックは手違いをして、森のなかに迷い込んできた人間にそれを使い、2組の恋人同士のそれぞれの相手を取り替えてしまう。
おまけに女王さまは、たまたま目のまえにいたロバを好きになってしまう。
パリ版ではほぼ原作通りのドタバタ喜劇だけど、モンテカルロ版では、なにがどうしてこうなるのという、イヤラシイ物語になっていた。
わたしが「パリ・オペラ座350年ガラ」というバレエ団のお祭りを観て、出演していたエレオノア・アバニャートというバレリーナの演技に感心したことはすでに書いた。
パリ・オペラ版の「夏の夜の夢」は、そのアバニャートさんが主演だから、おおいに期待したんだけど、うーん、もうひとつだったねえ。
エトワールに任ぜられるようなバレリーナは、それなり年功をつんだ人が多い。
長年の研磨の果てにようやくその地位を得るのだから、はつらつとした若い乙女を演じるには、いささかトウの立ちすぎた人が多いのもやむを得ない。
アバニャートさんが「350年ガラ」で演じたのはカルメンで、男を手玉にとるすれっからしのあばずれ女(すぐ上の写真)。
こういう役だと若いとか清純であるとかいう必要はないし、本領発揮なのか?じつに魅力的だった。
「ジゼル」でわたしにロボットみたいと書かれた、マリインスキーのディアナ・ヴィシニョーワさんもカルメンを演じているけど、まるで別人のようだったから、しおらしい娘役よりあばずれ女のほうが魅力的というバレリーナはいるのである。
欠点がもうひとつ。
アバニャートさんの役は、妖精たちの女王だ。
若くなくてもいい役だとしても、せめてその他大勢の妖精たちとは異なる衣装にしてほしかった。
このバレエにはアマゾンの女王という、狆がくしゃみしたようなバレリーナ(すぐ上の写真)が出てくるけど、衣装はこっちのほうがカッコよかったから、最初はこれが女王かと思ったくらい。
アバニャートさんの衣装は、他の妖精たちと同じ、ピンク色のすねまである衣装で、ややもすると妖精たちに埋没してしまう。
なにもモンテカルロのベルニス・コピエテルスさんみたいに、骨盤まで見える衣装にしろとはいわないけど、女王は女王らしく他に差をつけなければいけない。
ちなみにこのバレエの王さま役はユーゴ・マルシャンといって、頭が小さく、ハンサムで、プロポーション抜群のダンサーだ。
こういうのを専門用語で、王子さま役を張れるという意味のダンスール・ノーブルというらしい。
男のわたしが見てもほれぼれするし、それだけ見せ場が引き立つというもんだ。
こんなふうにダンサーの容姿や衣装にこだわるわたしって、観客としては邪道だろうか。
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