映画「東京裁判」の2
映画を観るまえに思ったのは、生きて虜囚のはずかしめを受けずと力説していた軍人たちが、なぜおめおめ生きのびて裁判にのぞんだかということだった。
もちろん、中には東條英機のように自殺未遂や、逮捕されるまえに自決した者もいるけど、ほとんどの被告は生きて裁判にのぞみ、彼らの全員が無罪を主張した。
しかしこれは日本人が初めて経験する、米国方式の裁判の慣例に従ったにすぎない。
すなおに有罪を認めようとして弁護士に押しとどめられた被告もいたのだ。
興味があったので、わたしは映画を観ながらグーグルと首っぴきで、東京裁判の被告たちの運命をなぞってみた。
荒木貞夫 = この人は作家の司馬遼太郎に、大将の器ではないと評価されている人だけど、この裁判では罪状認否のさいに余計な自説までとうとうと述べていた(余分な部分はあとで削除されてしまったらしい)。
これも当時の日本人が米国式の裁判になれてなかったせいだろう。
板垣征四郎 = 満州関連の戦犯というと、わたしは彼と石原莞爾、土肥原賢二らの名前がすぐ浮かぶ。
ところで板垣と土肥原は訴追されたのに(両名とも死刑)石原の名前は戦犯名簿になかった。
ウィキペディアによると、なんかずいぶんいいかげんな理由で石原は訴追をまぬがれたそうである(ホントなのかしら)。
戦争責任の多くは日本陸軍にあったというのが戦勝国の見方で、陸軍軍人であり、満州事変にも深く関わった石原が戦犯指名を受けていたら、彼も極刑をいいわたされていた可能性がある。
「落日燃ゆ」の広田弘毅 = 彼は東京裁判の被告のなかで、ゆいいつの文官とされているけど、ひとことの弁解もせずにしゅくしゅくと死刑台に登った。
彼の死刑判決には疑問をもつ者も多かったようで、ようするにひとりぐらい文官からも出さないとまずいんでねえかと、そういうふざけた理由で死刑になってしまった人のようである。
わたしは城山三郎の小説を読んでないんだけど、彼の妻も裁判中に自決したというから、ほかのおおかたの軍人よりもいさぎよいくらいで、これはあるいは、バカ正直な人ほど損をするという典型的な見本かも。
重光葵 = 戦艦ミズーリ上で降伏文書に、日本代表として調印したことで知られているけど、彼も文官で、それ以前に外交官を勤め、外国に友人知人が多く、なんで戦犯に指名されたのかだれにもわからからなかったそうだ。
ということで懲役7年(とちゅう恩赦)という、冗談みたいな判決になった人。
東條英機 = この裁判で最初から非難の矢面に立たされ、いまだに中国や韓国から鬼だ悪魔だとののしられている人。
おかげで他の被告からも敬遠され、映画のなかでも孤独感がしみじみ。
これじゃスタンリー・クレイマー監督の映画「ニュールンベルグ裁判」の、パート・ランカスター扮する法務大臣ヤニングの役割だな。
いっておくけど、日本はドイツほど(そしてソ連や中国ほど)個人に権力が集中する国じゃなかった。
軍部のなかに東條英機を毛嫌いする者もいたし、けっきょくみんなの意見を四捨五入して、まあ、ほかにいないからなと消去法で首相に推挙されたようなものじゃないか。
戦後70年の日本人からすると、彼ひとりに全責任を負わせるのはひどすぎるような気もする。
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