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2020年6月28日 (日)

かずおさん

Ia01

ネットニュースに、漫画家の楳図かずおさんの家が廃墟同然という記事が出ていた。
楳図さんというと、やせぎすで髪の毛ぼうぼうで、怖いマンガを描く、ちょっぴりひょうきんな人というイメージかもしれない。
なかなかどうして、それだけじゃないことをわたしは知ってるのだ。

井の頭公園の近くにある楳図さんの家は、赤白のストライプの入った奇妙な洋館で、派手な色彩がまわりの環境にそぐわないというので、近隣住民から建設反対運動が起きたといういわくつきの建物だ。
その騒ぎも落ちついて、現在はどうなったのか知らないけど、廃墟になっているというのはおだやかじゃない。

そこでパソコンで最近の家のようすをググッてみた。
木や草が伸び放題に放置されているらしいけど、家の写真を検索しても、あいにく最新のものが見つからない。
しかしこの検索の段階で、楳図さんの家はストリートビューから村八分にされているといううわさを見つけた。
どういう意味で村八分というのかわからないけど、これはグーグルの配慮じゃないか。
有名人の家ということで、しょっちゅう、世界中のファンから監視されていたのではたまらない。

わたしは彼のファンのひとりだから、家についての騒動には口をはさまない(はさめばとうぜん彼の味方をすることになる)。
でも作品の素晴らしさにはひとこと触れさせてもらおう。
この人はホラー漫画が専門と思われているけど、わたしが若いころ見て感心したのは「イアラ」という作品だ。
タイトルの意味はいまだに不明であるものの、輪廻転生を視覚化したような、その哲学的ともいえる内容に深く感動した。

この作品は単行本になっていて、そのなかに「イアラ」以外にもいくつかの短編が挿入されていた。
タイトルは忘れたけど、そのひとつに、ふたりの男のどちらと結婚しようかと迷う若い娘の話があった。
娘はその一方と結婚するんだけど、これがとんでもない甲斐性のない男で、貧困に追われた娘は、とうとう自分の選択を呪いつつ、崖から飛び降りて自殺をしてしまう。

ところがこれがすべて夢のなかの話で、夢からさめた娘は、今度はもう一方の男と結婚して人生をやりなおす。
今度こそ幸せになれるだろう。
ところがこの男は、金はあるのにひどくケチな男で、彼女は親不孝な子供たちからも邪険にされて、けっきょくふたたび崖の上に立つのである。

人間の運命は変えられないという事実を、残酷なくらいはっきりと描いた作品で、若いころのわたしはひじょうなショックを受けた。
彼をホラー漫画作家と思っている人にいっておきたい。
人は見かけじゃワカラナイと。

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