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2020年8月 4日 (火)

春の祭典

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最近のわたしは、家のでっかいテレビ(といっても32インチの液晶)でYouTube 映像を観るのにはまっている。
YouTube
というと、ひと昔まえは画質がわるくて、でかいテレビで観るにはイマイチな映像が多かった。
しかし最近は、
32インチていどなら画質がまったく劣化しない映像も多い。
ただし、
YouTube に上梓されている映像というのは、ほとんどが字幕なしだから、映画なんかだと意味がわからない。
ではなにを観るか。
当然ながら音楽や、そうバレエだね。
あるていど勉強しておけば、バレエの場合、意味はわかるのである。
コンテンポラリー・バレエだと、勉強しても意味がわからないけど、それは字幕の有無のせいではない。

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今夜はマリインスキー・バレエの「春の祭典(The Rite of Spring」を観ていた。
これはバレエ・リュスのニジンスキーによる作品だけど、わたしはこういう前衛的なバレエや音楽がニガ手である。
しかし大きい画面で、ヘッドフォンをつけて観ると、その迫力はひとケタちがう。
つい興の乗るままにお終いまで観てしまった。
だけではなく、せいぜい
3040分ほどのバレエだから、くり返して観てしまった。

見つけたのはうまいぐあいにかなり画質の良い映像だった。
2008
年のマリインスキーの舞台で、タイトル・クレジットにNHKの文字が見えるから、映像の制作に日本も関わり、過去に日本でも放映されたことがある作品かもしれない。
しかしわたしがこの映像を観るのは初めてだ。
このバレエは、ベジャールを始めとする先進的な振付師によって、現代化されたものもたくさんあるけれど、さいわいなことにわたしが見つけたのは、美術・衣装もほぼオリジナルといっていい舞台だった。

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ただ意外だったのは、このバレエの、ニジンスキーによるオリジナルの振付けはとっくに失われてしまっていて、いまオリジナルといわれているものは、米国のジェフリー・バレエ団が復元させたものだそうだ。
YouTube
にはこのバレエ団による復元のてんまつも記録映像として上がっており、その映像と、彼らの「春の祭典」も観ることができる。
観てみたけど、そう、字幕がないので詳しいことはわからんかった。
踊りはマリインスキーよりジェフリーのほうがいいんだけど、いかんせん
30年以上まえの映像なので、画質がよくないのが残念だ。

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で、肝心のバレエのことになりますが。
これは意表をつかれるバレエである。
「白鳥の湖」や「ジゼル」や、最近観ていいなあと思った「ラ・
.バヤデール」のようなバレエじゃない。
かといって、とんがったコンテンポラリー・バレエともちがう。
わたしがこのブログで、バレエのことを書き始めてから、初めて観るスタイルのバレエだ。
ロシアの民族色を前面に出したバレエなんだそうだけど、そんなことをいってもぱっと理解するのはむずかしいから、わかりやすく説明すると、アメリカ・インディアンが焚き火のまわりで円陣を組んで踊っている、そういう踊りを想像すればよい。
ダンサーの衣装やメーキャップも、まったく西部劇でおなじみの、アパッチやシャイアンのものである。

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「春の祭典」の音楽はストラヴィンスキーで、わたしはこのオーケストラ演奏をCDで聴いたことがある。
美しい旋律も調子のよいリズムも出てこないし、音楽までがインディアンの太鼓ふうで、ぜんぜんいいとは思わなかった。
初めて聴いてステキだと思う人がいたら、その人は病院で診てもらったほうがいいんじゃないか。

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バレエしろうとのわたしが、なんの予備知識もなくこのバレエの発表会に立ち会ったとしよう。
なんだなんだなんだ、このバレエは。
バレエでお馴染みの、つま先立ちでくるくるまわる場面がひとつもないじゃないか。
女の子はロングスカートでなにも見えないし。
これじゃ登美丘高校ダンス部の、「バブリーダンス」のほうがよっぽどマシだと、逆上してわめいたかもしれない。

わたしが逆上しないでいられるのは、わたしがずっと後世の人間で、「春の祭典」について、いろいろ物議をかもした革新的なバレエだということを知っているからだ。
つまり博物学者が水族館で、めずらしい生きものを見るのと変わらない楽しみがあるからだ。
こういう見方がいいかどうかわからないけど、たぶん世間の大半も同じような見方をしてるんじゃないか。
ニジンスキーがパリではじめてこれを上演したときは、観客席から罵詈雑言やモノが飛ぶ騒ぎになって、その騒ぎそのものまでが映画化され、それも
YouTube に上がっている。
映画のタイトルは「
Riot at the Rite」で、Riotというのは暴動という意味である。
バリジャンにとっても、これは常識はずれの舞台だったのだ。

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でもこのバレエの評価はすでに定まっている。
いまさらわたしがゴチャゴチャいってもと書いて、ついゴンチャロワさんのことを思い出した。
以前このブログで紹介したロシアの画家、ナターリャ・ゴンチャロワさんのことである。
そのおり顔にべたべたペイントで落書きした、この画家の写真を紹介した(もういちど紹介してしまう)。
このバレエが発表されたころ、彼女も美術や衣装デザインでバレエ・リュスに関わっていたらしいから、あれはひょっとすると「春の祭典」のアイディアを、自分の顔を使ってプレゼンテーションしていたものかもしれない。

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