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2020年9月23日 (水)

ベタ褒めの本

性懲りもなくまた図書館で本を借りてきた。
今度の本は「ロシア絵画の旅」という、まあ、硬いんだか軟らかいんだか、読んでみるまでわからないという本。
このブログを読んでいる人なら、わたしがロシアの絵画に愛着を持っている人間であることはご存知のはず。

この本ではトレチャコフ美術館の絵を、展示室ごとになぞるような解説がしてある。
それはいいんだけど、挿入されている写真の印刷がわるくて、肝心の絵の詳細がわかりにくい。
いい例が「ミヤマガラスの飛来」という絵だ。
実物は冬のロシアの過酷な環境のなかに、どこかしら春のいぶきを感じさせる、つまり前向きな未来を象徴する絵なんだけど、それがただもう暗いだけの陰鬱な絵にしか見えない。
絵を説明するのに絵がよくわからないというのが、この本の最大の欠点だ。

原著はロシア人のウラジミール・ポルドミンスキーという人で、1928年生まれというから、取り上げられている絵よりもずっと後世の人である。
ということは、この文章は著者が頭をひねってつむぎ出した想像の産物なんだろう。
それはいいとしても、ちょっと美辞麗句が多すぎるような気がする。

わたしはごますりやおべんちゃらが死ぬほど嫌いだから、ベタ褒めするような文章はたいていいちゃもんをつけたくなる。
肖像画についての解説で、画家は描かれる人物の内面性まで描き出したなんていわれると、またわたしのへそまがり(反骨精神といってもらいたいね)がむくむくと頭をもたげる。
世間にはコワそうな顔をしている人が意外と家族思いだったり、まじめそうな人が役場の金を使い込んだりする例がいくらである。
だから外見だけで人間なんてわかりっこないし、結果がわかっているから褒めているんだろうと、つい余計なことを考えてしまう。

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おべんちゃらを並べた本ということが、はっきりわかる実例がこの本のなかにあった。
ロシア最大の画家レーピンに、「聖ニコライが無実の三人を死刑から救う」という絵があるんだけど、これが当時のロシアで禁止されていた同性愛者を処刑する場面であることはだれにでもわかる。
しかしこの本では処刑されるのがただの市民ということになっていた。
たしかに
聖ニコライがオカマを救うでは世間体が大ちがいだから、著者がそのへんをぼかしたかったのもわかるけど、美辞麗句にもほどがある。

そういうわけで、称賛の部分は大幅に割愛して、残りの部分だけから必要なエッセンスを拾い出すことにした。
そうやって読むかぎり、けっしてわるい本ではない。
わたしのいちゃもんは激しいけど、本というものは書かれたことをすなおに信じるだけではつまらない。
このくらい難癖をつけるとおもしろさも倍増するものだ。

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