老婆心
すこしは知られたユーチューバーに「かねこあや」という女の子がいる。
若い美人のくせにだらしない性格らしく、部屋のなかではしたない格好でごろごろしてるから、若い女の子の私生活に縁のない当方としては、のぞき見感覚でいちじはよく閲覧したものだ。
彼女の友人に「てんちむ」という、これも可愛い娘がいて、ふたりはYouTubeでよく共演したりしていた。
そのうちけろりと忘れていたけど、最近になってこのふたりがケンカ別れをしたという情報を見つけた。
ケンカぐらいよくある話だし、まして若い娘同士じゃ犬も食わないと放っておいたら、YouTubeにはユーチューバー同士の揉め事をシンセツに解説してくれるユーチューバーまでいて、ことの詳細がわかった。
ケンカの原因は、かねこあやの飼っていたネコをてんちむが死なせたとかなんとか。
いまどきにわかに信じにくい原因だけど、それとは別にして、わたしにも似たようなイヤな思い出がある。
まえのアパートに住んでいたころ、階下にロシア人の“金髪クン”という若者が住んでいて、毛の長いロシア産みたいなネコを飼っていた。
高いんだろうねと訊くと、そんなことはありません、グランドのわきに捨てられていたのを拾ってきたんですという。
だいぶ態度のでかいネコだったけど、事実は意外とお粗末なものだ。
ある朝、まだ早朝に、わたしがゴミ出しに行こうと部屋のドアを開けたら、駐車場の先の道路っぱたになにやら動物の毛皮のようなものが。
じつはこのことは2016年6月27日の、このブログに書いたことがある。
この朝、金髪クンの家のネコは、車にはねられて昇天しちゃっていたのだ。
わたしがそれを発見したのは早朝の4時半ごろだった。
まだ金髪クンは寝ているだろう。
朝からネコぐらいで叩き起こすのも気のドクだ。
そう考えて、とりあえずネコの遺骸を、道路っぱたに転がしておくにしのびないから、金髪クンの部屋のまえまで移し、5時になってから電話をした。
わたしの行為には、ペット愛好家からすると理解に苦しむ点があったようだけど、そのときはぜんぜんそんなことに考えが及ばなかった。
金髪クンはパンツひとつで飛び出してきた。
死んだネコを抱きしめて茫然自失である。
どこで死んでたんですかと訊くから、あそこだよと場所を教えてやる。
どんなふうに死んでましたかと訊くから、頭をこっちにして、こんな具合に、すぐに電話すると迷惑だから、5時になってから連絡したんだと事情を説明した。
車にはねられたといっても外傷はないから、おそらく走ってくる車に飛び出して、はじかれて、脳挫傷かなんかで死んだものだろう。
こういうことはよくあるから、ネコはけっして屋外に放し飼いにしちゃいけないと、わたしは彼にお説教まで垂れておいた。
2、3日すると金髪クンがやってきて、ほんとうはあなたが車で轢いたんでしょうという。
なにバカなことをいってるんだと否定すると、それじゃなぜ発見してすぐに電話をしなかったんですかという。
なるほど、それがペット愛好家の心理か。
わたしは動物好きだけど、ペットに服を着せたり、死んだら立派な葬式をするような、いわゆる猫っ可愛がりする人間じゃない。
ペットにはペットの分際があると考え、最近の過激なペットブームを苦々しく眺める人間なのだ。
たかが飼い猫が死んだくらいで朝から叩き起こされてたまるかと、話がだんだん世間の常識からかけ離れてくるけど、これがわたしのペットに対する一貫したスタンスである。
その後、金髪クンは証拠をつかもうと、わたしの車の下を覗き込んだりしたようだけど、そんなものがあるはずがない。
疑惑はあっても、わたしの説明に矛盾はないということで、この件はそのうちうやむやになった。
ネコは庭のケヤキの大木の下に葬られ、さらにその後大木は切り倒され、庭そのものが更地になって、この件は記憶の彼方に消え失せた。
なんらかのわだかまりは残ったかもしれないけど、わたしと金髪クンはケンカしたわけでもなく、もっとあとで、彼は女の子と富士山に登るといって、わたしから登山用具を借りていったことがある。
彼はわたしの忠告を聞かず、薄着のまま富士山頂まで登り、あまり寒かったものだから、サイズの合わないわたしのレインコートを無理やり着込み、高価なゴアテックスを台無しにしてしまった。
恨むとしたらわたしのほうだ。
ところでかねこあやのネコだけど、ここに書いたとおり、ネコは不測の事故で死ぬこともある。
漱石さんちのネコだって、最後は溺死だった。
つまんないことで(この発言が炎上しないよう祈る)こころの安定を失わないよう、老婆心ながら忠告申し上げる。
| 固定リンク | 0
「ネットをめぐる」カテゴリの記事
- やりとりの追伸(2025.03.03)
- 2人のやりとり(2025.03.02)
- またHiroshiさん(2025.03.02)
- 代替空港(2025.02.24)
- セコい日本(2025.02.19)
コメント