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2020年12月19日 (土)

地中海/コルシカ島A

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ポール・セローの「大地中海旅行」は、リヴィエラからフェリーでコルシカ島にやってきた。
わたしはもちろん、コルシカ島なんて知らないと書こうとしたけど、いやいや、ここは世界的に知られた歴史上の大人物の出身地だった。
わたしはつい最近、ロシア映画「戦争と平和」の戦争シーンが気に入らないと、勝手にその戦争の部分を編集しなおしてしまった男だ。
この映画では敵将であり、侵略者であるはずのナポレオンも、なかなかカッコよく描かれていた。
だからこそ、最後に冬将軍に敗れて敗走する彼の挫折感、みじめさがよくわかった。
このナポレオン・ポナパルトが生まれたのがコルシカ島である。

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ほかにコルシカについて知ってることはほとんどない。
まず、例によってどのくらいの大きさの島なのか。
マジョルカ島では、たまたまネット上に群馬県と重ねた地図を発見したので、それを拝借したけど、今度は自分でやってみた。
これは岩手県の地図(青)に重ねたコルシカ島(赤)だから、おおざっぱにいうと、岩手県の半分よりいくらか大きいくらい。

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セローが上陸したコルシカ北部の都市バスティアはこんな感じ。
ここで注目すべきは街の背後に見える山脈である。
コルシカは山ばかりの島なのだ。

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セローはコルシカに上陸して、島の領域はフランスだけど、建物はイタリアに似ていると看破する。
そんなことをいわれたって、自慢するわけじゃないけど、コルシカとフランスとイタリアの、相違点、共通点なんかわたしにわかるわけがない。
わからないといえば、コルシカ人の性格がどうのこうのといわれても、パソコンのまえでだらしなくくつろぎながら、ストリートビューによる旅をしているわたしにはわかりっこないのである。
このことを了解してもらったうえで、また例によって街の郊外に行ってみよう。
閑静でいいところだけど、地中海の周辺の郊外はどこも似ているとしかいいようがない。

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この島にもマジョルカ島と同じように鉄道がある。
ひとつのレールの上をいろんなかたちの列車が走っているらしく、カッコいい車体もあれば、セローにトロッコと変わりないといわれる車両もある。
セローは列車でまず島の北西にあるカルヴィをめざした。
列車は途中のカザモッツァから内陸に入り、ポンテ・レッシャで分岐して、ふたたび海辺にある終着駅をめざす(鉄道図を参照のこと)。
彼の文章によると、列車は発車してまもなく、うっそうと茂った灌木地帯に入っていき、まわりから灌木地帯独特の芳香がただよってきたとある。
さすがは世界的紀行作家だ。
わたしがはじめてJR小海線の野辺山駅から列車に乗ったときみたい。

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セローは列車に乗りっぱなしだったけど、わたしはポンテ・レッシャで下車して、村のなかを自由に歩きまわった。
そして発見したのが石橋のあるこんなすてきな景色だ。
この橋の上からながめると、山のあなたに、セローも見たモンテ・アスト山が頭をのぞかせている。

山間部を抜けて、イル・ルースという場所でふたたび海岸に出た。
セローがこのあたりの海がきれいだとほめているので、ここで列車を降りてみる。
じつはセローは列車を降りてないから、これもわたしの独断サービスである。

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ここには陸続きのピエトロ島という小さな島がある。
陸続きの島というのもおかしいけど、橋のように細長い陸地でつながった島で、コルシカの観光ポイントのひとつだ。
その島までぶらぶら歩いてみた。

わたしがピエトロ島を見物しているあいだに、セローは終着駅のガルヴィに到着し、ここにホテルを見つけてメシを食っていた。
食事のあと出会った女性にコンニチワと声をかけたら、お節介なイスラエル人が、コルシカでそんなことをしたら殺されるぜと教えてくれたそうである。
わたしは日本の若者に、コルシカのようなめずらしい土地に旅をして、映像をどんどんYouTubeに上げるべきだといおうとしたけど、これでは危険すぎて勧められない。
コルシカ人は嫉妬ぶかく、激しやすい性格らしい。

あやうく命拾いしたセローは、翌朝、ふたたび列車に乗って、コルシカ中央部の山あいの街コルテをめざす。
ここは長野県の松本市のような登山者のメッカである。
先にコルシカは山ばかりの島であると書いたけど、古くはこの自然環境が外敵の侵入をさまたげ、コルシカ人の孤塁を頑固に守るような特性をはぐくんだという(事実かどうかは、もちろんわたしには確認しようがない)。
セローはここで自転車を借り、嬉々としてあたりを走りまわる。

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コルシカの自然については、英国人の画家エドワード・リアによって、早くから紹介されていた。
この画家は鳥類を写実的に描いた、博物学のさし絵画家として知られているけど、日本ではそれより、子供のための童話のさし絵師としてのほうが有名らしく、図書館を検索したらその手の本がぞろぞろ。
試しにそのうちの1冊を借りてみたけれど、書かれていたのはリメリック(五行詩)という形式の詩で、こりゃわたしの手にあまる。
ようするにどこがおもしろいのか、サッパリ。
訳がわからないものを芸術的だなんて尊ぶ趣味は、わたしにはないもので(ここに載せたのは彼の自筆の絵に、わたしがちょっと手を加えたもの)。

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セローの自然をほめちぎることは尋常ではないので、コルシカでそれを確認するために、ひとつトレッカーになって山に登ってみることにした。
最初は出発点である清明かつ殺風景なコルテの町だけど、まわりをながめただけで山好きにはコタえられない景色だ。

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とりあえずコルテから渓谷づたいに西方の山脈をめざすことにする。
このトレッキングコースは、山奥であるにもかかわらず、ところどころのポイントでストリートビューが利用できるのがうれしい。
とちゅうの森のなかの景色はこんな感じ。
コルシカは花崗岩の島といわれていて、ナメ沢と呼ばれる、大きな一枚岩の上を水が流れる地形が多いようだ。
最近は世界的に健康志向なので、登山やハイキングに精を出す人が多く、どこででも裸になって水浴びをしようという女の人(セローにいわせるとドイツ人が多いらしい)がいるのはケシカラン、いや、アリガタイというべきか。

セローは言葉を尽くしてコルシカの自然を讃えている。
『我々に旅の真実に触れる瞬間を与えてくれるのは、身のひきしまるような孤独やひそやかなささやき声、偶然目にした光景であることを思い出した』
『割れ目のある灰色の岩、張り出した岩棚、雪のショールにおおわれたクレパス、花崗岩の島全体の上に、冬の青空がひろがっていた』
これはセローの本からの抜粋だけど、深田久弥にひけをとらない名文だ。

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歩き続けると、やがて尾瀬ヶ原か苗場山にあるような広々とした高層湿原に出た。
水をたたえるのは「二ノ湖」と呼ばれる湖で、その周囲は登山者を魅了してやまない、まさに天上の楽園といったおもむき。

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コルシカの最高峰はチント山といって、標高は2706m。
日本に来れば中堅の高さにすぎないけど、欧米の登山家にとってよく知られた山らしく、ネット上にたくさんの写真が上がっている。
トップの写真と最後の写真がコルシカの最高峰だ。
あー、疲れた。

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