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2020年12月13日 (日)

地中海/マルセイユ

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そもそも地中海はなんで「地中海」というのか。
わたしは言語学者ではないから詳しい語源は知らないけど、英語で書くと Mediterranean で、これはそのものズバリ、地球のまん中という意味だそうだ。
これが和製漢字だとしたら、律儀な日本人はうまい訳をしたものである。
漢製漢字である「中華」という言葉と似ているけど、中国に文句をいう人で、地中海に文句をいう人を聞いたことがない。
まあ、相手が海じゃのれんに腕押しということもあるか。

ポール・セローの地中海旅行は、とうとうフランスまでやってきた。
列車の旅というのはバスよりも揺れは少ないし、どうでもいい連中がとなりに座って話しかけてくることも少ないから、のんびり旅行には最適だ。
ただ、通り過ぎる景色がほんとうに一過性のもので、そこで下車して何か体験するわけでもないから、なんか幻燈を見ているようで(読んでいる人間には)さっぱり記憶に残らない。

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列車は海辺を走り、エタン・ルカートやラパルムという大きな潟湖のわきを抜けていく。
潟湖ってどんなところなのという人のために、またストリートビューでそのへんの景色を見てみよう。
これは車から見た景色だけど鉄道もこの近くを走っている。
潟湖のあたりでさらにわき道に入り込んで、海辺の景色をながめてみた。
殺風景なところだけど、素朴なリゾートといった感じで、わたしならぜひ寄り道をしたいところだ。

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このあたりでセローはフラミンゴが湖面を飛んでいくのを見た。
自称ナチュラリストのわたしにはこういう話がおもしろい。
フラミンゴはアフリカにもいるし、中南米にもいるけど、フランスにいるとは思わなかったようで、セローも興味津々である。
だいたいフラミンゴってなにを食べているのか、知ってる人イマスカ?
水辺に棲んでいるんだから魚だろうと思うのは間違いだ。
カモなら水草や、たまに人が投げてくれるパンを食べるけど、フラミンゴの生息地はたいてい人間社会とは隔絶した場所で、水草なんか生えてない場合が多い。
答えはウィキペディアを読めばわかるけど、あまり腹の足しにならないようなものを食べて、タンチョウヅルと変わらない体格を維持してるんだからコスパのいい鳥である。

博物学は楽しいけど、あまり深く立ち入ると科学記事になってしまう。
セローはアルルに寄ってみた。
ここでは市長さんが、闘牛が出てくるビゼーの「アルルの女」を町おこしに利用しようと、何年かまえに闘牛を復活させたそうで、動物愛護協会の名誉会員であるセローは怒り狂う。
わたしも闘牛なんかこの世から絶滅させたいほうだから、それはまあいいことだけど、「アルルの女」ってどんな曲だっけ?
わたしはタブレットをつねにかたわらに置いているので、ただちにYouTubeで聴いてみた。
ああ、あれかと、わたしみたいに年期を積んだ人間なら、だれでもいちどは聴いたことのある曲だった。

冬の旅であるにもかかわらず、このあたりではアーモンドの花が満開だった。
アーモンドはわたしもマルタ島で、果樹園にさかんに咲いているのを見たことがある。
知らない人が見たら、ウメやアンズとまちがえそうな花で、アルルでは駅のホームにも咲いていた。
それをフランスの高速鉄道TGVが無情に蹴散らかしていく。
これに対するセローの反応をみると、彼は新幹線の旅が好きではないらしい。

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セローはマルセイユまでやってきた。
マルセイユに到着する旅人は列車で到着するのがよいと彼はいう。
なんでもサン・シャルル駅は崖の上にあって、駅の階段から眺める街の景色がすばらしいんだそうだ。
すばらしいってのはどんなものか。
さっそくわたしもストリートビューで駅のまわりをながめてみた。
ただ、ストリートビューで駅前のようすはわかるけど、テラスになっている駅の正面の広場がせまいので、精いっぱいうしろに下がっても画面からあふれてしまい、ストリートビューから駅の全体像の写真を切り取るには不向きだ。
これはストリートビューの欠点で、360度カメラで撮っているのだから、あるていどの視線は変えられるけど、カメラの位置はつねにわたし以外のだれかが決めたもので、わたしの好きなポジションに勝手に移動したり、レンズを交換するわけにはいかないのである。
しかしネット上にはこの駅の写真もたくさんあるから、無理にストリートビューから切り取る必要はないわけで、駅からの展望はそういう他人の写真にまかせよう。
遠くに「良き母」と称される、女神像をつけたノートルダム・ドゥ・ラ・ガルド寺院が見えて、駅の階段からの眺めはたしかにすばらしい。

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このよく目立つ寺院まで行ってみよう。
坂の多い街だから根性が必要だけど、寺院の中庭からもマルセイユの街が一望だ。

マルセイユでいちばん目立つのは移民だという。
彼が旅をしたころでさえそうだとしたら、現在はどうなっているだろう。
日本人の娘がパリに行って、ここはアフリカかってとまどっている映像を見たことがあるけど、ドイツのメルケルさんが博愛主義を発揮して、移民でも難民でも無条件に受け入れる、もちろんEUに属する国は右へならえだなんて言い出したものだから、アルジェリア人はうれしがって、かっての宗主国さまのところに押しかける。
これはフランス人にとっては自業自得ともいえる。
アルジェリア人がフランス語を話せるのは、フランスが自ら仕込んだせいなのだ。
有無をいわせず地中海の対岸にあるよその国を植民地にし、ここはオレたちの国だよと宣言したフランスが、いまさらその国からの移民を断るわけにはいくまい。
マルセイユは犯罪多発都市らしいけど、アルジェリア人はここぞとばかりに、植民地時代の恨みをはらしているんじゃあるまいか。

じつはわたしはNHKが放映している「世界ふれあい街歩き」という番組のファンで、これがデジタル放送になるよりずっとまえから、録画しては保存するということを続けてきた。
その2009年放送分にマルセイユがあったから、それを観て参考にすることにした。
マルセイユは港町で、フランス第2の都市だそうだ。
フランスの国歌が「ラ・マルセイエーズ」であるとおり、フランス革命でもここは重要な役割を果たしたところだという。
マルセイユの名物料理はブイヤベースで、これは安ホテルしか泊まらないセローも味わっていて、この部分は開高健さんの紀行記なみ。
わたしも食いたくなったけど、さすがにブログでは味わうわけにいかないから、せめて写真でも載せておこう。

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たっぷりダシをとった海鮮のごった煮という感じで、おいしそう。

「ふれあい街歩き」を見ていたら、移民が国に電話をかけるための店というのが出てきて、トルコやアルジェリア、ナイジェリアなど、さまざまな国の国旗が貼ってあった。
移民が原因かどうかは知らないけど、マルセイユはひじょうに危険な街だそうだ。
セローも街をぶらつくとき、カメラやよけいな金銭を持たないよう、最大限の注意をはらっている。

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あまりよけいなことを書いて、わたしまでレイシスト呼ばわりされたくない。
マルセイユにはアレクサンドル・デュマの「巌窟王」に出てくる監獄島がある。
セローの本ではイフ島という名前で出てくるので、わたしも、べつに無理に行きたいわけじゃないけど、ストリートビューで探してみた。
イフ島という名前では見つからなかったけど、マルセイユの沖合にシャトー・ディフという島があり、かって監獄のあった島だというから、これがそうらしい。

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