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2020年12月 8日 (火)

地中海/マジョルカ島

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地中海のほとりをたどってスペインのアリカンタまで来たポール・セローは、フェリーに乗ってマジョルカ島をめざす。
マジョルカ島?
名前は聞いたことがあるけど、どんな島なのか、なにがあるのかということになると、わたしはまったく、さっぱり、ぜんぜん知らなかった。
バレアレス諸島のひとつですといわれると余計わからなくなってしまう。
ところがフェリーがイビサ島に寄ると知って、こっちの島の名前はどこかで聞いたなと思った。

青春のころ、観て、ちょいと感動した映画に「モア」という作品があって(どんな映画かということはこのブログに書いたことがあるから、それを読んでチョーダイ)、その舞台がイビサ島だった。
ボーイッシュな魅力のミムジ・ファーマーがすっぼんぽんになって、麻薬をやったり桃色遊戯に耽ったりする物語で、夜明けの海岸が美しくとらえられていた。
美貌で知られた日本の女優さんが麻薬に狂ったのは、この島を訪問したのがきっかけだそうだ。
この映画は1969年の映画だから、この島はすでにそのころから、ハシシありLSDありの、ヒッピーたちの聖地であったらしい。
あんな感じの島かということはわかったけれど、これを読んでる人の大半にはわからないだろうなあ。

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マジョルカはマヨルカとも表記される。
これはスペイン語表記か英語表記かってことだけど、このブログではポール・セローの本を話題にしているのだから、その表記にならうことにする。
ところでマジョリカ島って、どのくらい大きな島なのか。
たとえば四国くらいあるのか、いや淡路島ていどか。
日本のどこかに同じくらいの面積の土地があれば説明しやすいんだけど、あいにく似たような大きさで、ふさわしい土地がない。
ググッてみたら、沖縄の3倍くらいということがわかった。
ものさしで測ってみようとしたけど、沖縄は尺取り虫みたいにたてに細長いので比べにくい。
うまい具合に日本の群馬県(わたしの出身地だ)と重ねた図を、自分のブログに載せている人がいたから、それをコピーしておこう。
これならわたしは実感としてわかりやすいけど、これを読んでる人の大半にはわからないだろうなあ。

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セローはフェリーでマジョルカ島最大の都市パルマに上陸し、レンタカーを借りる。
ここで意外だったのが、この島には鉄道があって、誰でも乗ってみたくなる木造車体のユニークな列車と、そして新幹線もどきまで走っていたことだ。
セローは鉄道にはほとんどふれてないけど、じつはマジョルカは、小さい島としては身分不相応なくらい、むかしから鉄道がたくさんあったらしい。
それがモータリゼーションの波に押しまくられ、御多分にもれず大半は廃線になっていたものが、本格的に復活したのは1994年ごろだという。
つまりセローのこの旅とはすれ違いだったわけだ。

考えてみると、群馬県より小さな島で路線もかぎられているのだから、列車で島めぐりというのは現実的ではない。
免許証があるならレンタカーのほうが便利である。
セローもレンタカーを借りて、この島でいちじひきこもりをしていた詩人ロバート・グレーブスの屋敷に行ってみた。
この詩人はマジョルカのデヤという村で隠遁生活をおくったという。

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デヤという村はパルマの北に20キロほど行ったところにある。
グーグルマップでは、さすがにその屋敷までは探すことはできなかったけれど、たぶんこのへんだろうという地点の景色を見せる。
詩人の隠遁先にふさわしいすてきなところだ。

ここでロバート・グレーブスは、最初は女神、あとはがみがみとうるさい女になる愛人と暮らす。
セローという人は女性に対してなにか恨むところがあったのか、このあと登場するジョルジュ・サンドに対してもろくなことを書かない。
わたしといっしょで、女性を崇めたてまつることでは人後におちないくせに、そんなものは幻想にすぎないと、すぐに現実を直視してしまうのかもしれない。

さて、マジョルカ島といえば、ここに滞在した有名人がもうひとり、いや、2人いる。
作曲家のショパンと愛人のジョルジュ・サンドだ。
こう書いて迷った。
というのは、この2人の場合、ジョルジュ・サンドとその愛人ショパンと書くべきかもしれない。
どっちだっていいようなものだけど、サンドが生きていればきっと文句をいう。
彼女は男をとっかえひっかえしたフェミニストの大先輩であり、ショパンよりずっと長生きして、晩年の肖像画なんかコワイくらいなのだ。

セローがマジョルカで買った本に「マヨルカの冬」というのがあって、これはジョルジュ・サンドがマジョルカをさんざんこきおろした本だそうだ。
このブログで参考にするために、わたしも読んでみた。
こきおろしていることは間違いではないけど、だいぶ予想とちがったねえ。
日本の新婚のペアがマジョルカを訪問したとする。
男/ほら、これがショパンとジョルジュ・サンドがいっしょに暮した島だよ。
女/ああ、素敵ねえ。あの夕日をきっとふたりで眺めたのね。
そういうもんじゃないねえ。
まずのっけからおそろしく男性的な文体でびっくり。
この本のなかにショパンは“病人の知り合い”として出てくるだけで、べたべたしたロマンスなんかこれっぽっちも出てこない。
サンドとショパンとの関係を想像するとしたら、羽根の下にヒヨコをかかえこむ強いメンドリぐらいしか思いつかないや。
いずれにしてもこれ以上紀行記から脱線するのはよそう。

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この2人の画像を載せようと思ったけど、美男美女なのにいい写真がない。
ドラクロワがピアノのまえのショパンと、そのかたわらでもの思いにふけるサンドを描いているけど、ちょっとわたしのイメージからはずれている。
この画像は可能なかぎり理想に近づけた2人だ。
本物の本人たちに似ているかどうかは定かじゃない。

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セローもひきこもりのタチなのか、マジョルカ最大の都市パルマには目もくれない。
わたしもひきこもりだけど、外国に行けば街でも村でも見て歩く。
だからパルマの写真も載せておこう。
最初の2枚はパルマ市内にある「パルマ大聖堂」という古い寺院である。
あとの3枚は典型的な南欧ふうの海岸だ。
わたしもこんな島にこもって、本を読んだり、ひまなときはハイキングでもしてみたい。

お終いに、どうでもいいことだけど、セローがマジョルカでポルノについてうんちくを述べていることを書いておこう。
彼はそっち方面にも興味があるらしく、日本に来たときは村上春樹の案内で、秋葉原あたりのポルノショップをのぞいていたような・・・・

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