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2021年1月10日 (日)

地中海/ヴェネツィアB

映画とストリートビューだけではわからないけど、わたしが録画したテレビ番組「世界ふれあい街歩き」のヴィネツィァ編には、雑学的話題がたくさん出てきて、ためになる。

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コーヒーを屋外のカフェで飲む文化は、この写真にあるサン・マルコ広場のオープンカフェが発祥の地だそうだ。
同じ番組にヴェネツィアの名物料理も紹介してあって、海鮮パスタをピザの皮でくるんだ「カルトッチョ」という料理が出てきた。
これはベジタリアンのセローやわたしに歓迎されそう。
まだある。
街のなかのある建物の外壁に、花瓶をかたむけたおばあさんのレリーフがついていて、これはむかしこの街でクーデターが起こりかけたとき、反乱軍の親分の頭に花瓶を落として、クーデターを阻止したおばあさんを記念するものだそうだ。
そんな無茶なことをして、そのあとおばあさんはどうなっただろう。

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この街にはピサの斜塔のように傾いた塔もある。
倒れたらあぶないですねとナレーションが入ると、いや、何百年も倒れなかったんだから、これからも倒れないだろうとイタリア人的返事。

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2本の円柱が並んだ埠頭からサン・マルコ寺院まえの広場に上がると、ドゥカーレ宮殿の向かいには、いまも発祥の地のオープンカフェが店を出している。
アバンチュールの期待もないじゃなかったアラフォーのヘプバーンは、この店でイタリアの色男ロッサノ・ブラッツィと知り合い、ひと夏の恋に身を焦がすのである。
同じテーブルに、手の早いイタリア男の誘いを持っている日本の女の子が、今日も座っているかもしれない。

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映画「旅情」にはサンタ・マリア・デッラ・サルーテの聖堂も出てくるけど、映画のほうがストリートビューで見たものより古色蒼然として貫禄があった。
70年ちかくまえの映画のほうが現在より古く見えるというのは、映画のあとで建物全体を洗浄したか、ひょっとすると色を塗り替えたのかもしれない。
古いテクニカラーの映画を無理やりデジタルに変換したので、画質が荒れた可能性もある。
デジタル化すれば画面がきれいになると信じている人が多いけど、これは誤解だ。
ぜんぜんべつな技術でも考えないかぎり、古い映画を機器の進歩に合わせてきれいに見せるというのは、現在放映されているものが限界じゃないか。

ヴェネツィアの名産にガラスの工芸品があって、映画のヒロインも骨董品の花瓶を買い求める。

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この花瓶はムラーノ島(地図で赤丸がついている)のガラス工房で作られている。
ただし観光地で土産を買うさいは注意をしなければいけないことを、わたしは中国やトルコでいやっというほど学んだ。
イスタンブールでは発泡石のパイプを買おうとして(わたしはタバコ吸わないんだけど美術品として)、値段を尋ねたら、予想の5倍くらいのことをいう。
高すぎるのであきらめたら、いくらなら書いますかとしつこい。
買う気がないから予想よりずっと下の値段をいったら、その値段まであっという間に下げられたことがある。
映画ではヘプバーンは花瓶を相手のいいなりで購入するんだけど、同じホテルに泊まっている米国人夫婦が、同じものをずっと安く買ってきたことを知ってガックリ。

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ちなみにムラーノ島にも古い寺院があって、やはり内装はコージャス。

この映画最大のスペクタクル・シーン?は、ヘプバーンが後ろ向きでカメラに熱中し、足を踏み外して運河に落ちるシーンだ。
この場面はとくに興味があったのでストリートビューで探してみた。

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これが現在のその現場。
彼女はあとずさりしていって、まん中の杭のあたりで運河に落ちる(当時は杭はなかった)。
映画は50年代の作品だから、女性はみんな落下傘型のフレアスカートで、その格好のまま運河浴をするヘプバーンもほんと根性のある女性だ。
だからこそ、彼女はオスカーを4回も受賞した、ただひとりの女優といえるんだけど。

通俗的な観光地がキライなはずのポール・セローでも、ヴェネツィアでは激しく感動したようなことを書いている。
なんかお義理で書いているような気がしないでもないけど、わたしも名所旧跡なんぞに興味はないほうだから、彼の気持ちはわかる。
彼は人間の生活をひっくるめて、この古都をひとつのパッケージとして観ているのである。
だから観光地に行っても、めずらしい魚がならんだ市場のにぎわいや、リヤカーの行商とおかみさんが値切り交渉をしている場面や、もうやたらにごった返している駅前のようなところをのぞきたがるのだ。

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もう店じまいしているけど、上の写真はわたしならとうぜん見にいったはずの魚市場と青果市場。

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むかしのヴェネツィアには売春婦の集まる橋があったというので、そこへも行ってみた。
この橋がそうだけど、いまでも売春婦が集まるかどうかは定かじゃない。

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ストリートビューでヴェネツィア市内を見てまわっていたわたしは、じっさいに見たことのある中国の蘇州を思い出す。
蘇州は東洋のベニスと呼ばれているけど、けっして掛け値じゃない。
細部を見れば汚いところもあるけど、ヴィネツィアと同じような、運河のほとりの古い建物やそれをささえる古い石垣、そして夕日が沈むころ水面に赤く映える街の姿など、マクロ的視点でながめれば、けっして本家にひけをとらない美しさだった。

まだ先の予定があるセローは、時間を有効に使うために、美術館めぐりをして彼の好きな海に関する絵だけを観ていこうとする。
ここでサン・マルコ寺院にある、ディエポロの「海からの贈り物を受け取るヴェネツィア」という絵のことが出てきた。

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どんな絵なのか好奇心から調べてみたら、日本のなんとかいう若い起業家みたいに、お金を積み上げて美女をくどこうという海神ネプチューンを描いたものだった。
神さまなら神さまらしく、さっさと強姦でもしてしまえばいいのに、兄貴のジュピターはいつもそうやっているぞ。

このあとセローはトリエステに寄るけど、それはジェームズ・ジョイスとイタロ・ズヴェーヴォの文学談義でしかない。
彼の旅はこれまでは平和な場所ばかりめぐってきた。
しかしトリエステから先は、クロアチア、ボスニア、モンテネグロなどの旧ユーゴスラビアの国々で、セローが旅をしたころはまだ現在進行形で紛争地だったところである。
そんなところにストリートビューがあるのかどうか、ちと心配だけど。

あ、そうそう、帰国のときがきて、駅に見送りにこない彼氏を未練たらしく探し求めるアラフォーのヘプバーンは、列車の発車まぎわに駅に駆け込んできたブラッツィ君を発見して、ようやくその真意を確認することができたのでありました。
汽車は出てゆく煙は残る、メデタシ、メデタシ。

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