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2021年1月24日 (日)

地中海/アルバニアB

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すごいところだなと感動しながら、それでもセローは首都のティラナに着いた。
アルバニアで北朝鮮の正恩クンの役割を果たしていた独裁者エンヴェル・ホッジャが死んだのが、セローがこの国を訪ねたより10年ほどまえのことだった。
このホッジャという人は筋金入りのスターリン崇拝者で、フルシチョフがスターリンを批判するとソ連と決別、米中が和解すると中国とも決別、相性がいいと思われたルーマニアのチャウシェスク、北朝鮮の金日成ともケンカ別れをして、そのうち味方をする国がひとつもなくなってしまった。
それでも動じないところ、そして文句をいいそうな政敵や国民はかたっぱしから粛清もしく強制収容所という姿勢は、まさに金日成から正恩クンへ連綿と続くアノ国と同じものだった。

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ティラナで知り合った若者によると
『ある人間が敵だとみなされると、肉親もみんないっしょにキャンプ(強制収容所)に送られるんです』
『もっと遠い親戚でも、大学教育とか受けられなくなりました』
『西洋の堕落した音楽をかけたという理由で、もと教育大臣だった〇〇とその家族が強制労働をさせられていました』
まさに北朝鮮ではないか。

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現在のティラナは、やはり街の中心だけにかぎれば、大きなダムをかかえた近代的な都市である。
しかしセローがこの街に着いたときは、ホテルさえ見つけるのが困難なくらい荒れ果てていて、ようやく見つけたホテルでは、仕事で来ていた米国人に、ここは世界のホテルのワーストランクで、ナンバーワンだよといわれるほど。

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街をぶらぶらしてみた。
ホッジャの時代、いちじこの国は全体が無神論者だったらしいけど、現在は教会があるし、モスクもある。
しかしこの後の歴史をながめると、まったく御利益はなかったようだ。
街の中心に大きな公園があって、ホッジャの記念碑もあったらしいけど、セローは独裁者というものがキライらしく、あっさりとしか触れない。
わたしもキライだから、たぶんこれがそうだろうぐらいにしておく。
ここには国立歴史博物館という立派な建築もあり、公園の一角にウマに乗った武将の銅像が建っていた。

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ホッジャならウマよりガソリン車の時代の人だから、だれかと思ったらこれはアルバニア建国の父といわれるスカンデルベグの像で、中世の歴史上の人物だった。
アップで見ると頑固そうな老人だ。
ところでアルバニアの国旗ってカッコいいねえ。

近代的な都市なんか見ても仕方がない。
現実の旅行でもわたしは、その国の原風景をよく残した田舎のほうに興味のある人間だ。
それで街の郊外から、田舎に視線を移してストリートビューで探索してみた。

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中心部をはずれるとだんだん殺風景になり、ヒツジやヤギがいたり、花の咲き乱れる草原があり、道路のわきに洗濯ものが干してあったり、日本人にはめずらしい景色に事欠かない。
問題はストリートビューが田舎を、都会や観光地ほど完璧にカバーしてないことだ。

ホッジャが死ぬと後継者は、ソ連の崩壊とそれにともなう東欧諸国のドミノ倒しで、民主化に舵を切った。
セローはいちばん悲惨なときにこの国に着いたのだ。
ひどい独裁であっても指導者がいればなんとか秩序は保たれる。
それが突然いなくなると、きっちりはまっていたタガがはずれて、経済はがたがたになり、インフラは崩壊し、治安も乱れ、人々はなにをどうすればいいのかわからない。
おそらく北朝鮮の体制がいま崩壊すれば、あの国でも同じような光景が見られるにちがいない。

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セローは動物園に入ってみた。
わたしも中国のウルムチで動物園に入ったことがあるけど、こういうときは行き場がなて、ただもうヒマつぶしに街をさまよっているときが多い。
そこで環境保護に熱心なセローは、せまくて非衛生な檻の中でいじめられるライオンを見て、はげしく憤る。
わたしもそうだった。
ウルムチでは爪を抜かれたクマが、口輪をはめられ、牛のように鼻輪をされて見世物にされていた。
しかし動物たちのこういう悲惨な環境は、動物愛護の精神がゆきとどいて、じょじょに世界中で是正されつつある。

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わたしもアルバニアの動物園に入ってみたけど(ストリートビューで)、どうやら現在は動物の展示はやめたようで、檻なんかひとつもなく、静かな植物園のようになっていたのはよかった。

独裁者エンヴェル・ホッジャが死んだあと、経済的に困窮していたこの国は、国をあげて闇商売に手を出した。
いわゆるネズミ講というやつで、国民から出資をつのり、その金を紛争中だったとなりのユーゴに、武器を密輸出する費用としてつぎ込んだのである。
なにしろそれまで社会主義国で、資本主義のしくみも投資のトの字も知らない国民ばかりだから、これが投資というものだと、じっさいに最初のうち儲かった話など聞かされると、もう歯止めが利かない。
国民の半数がネズミ講に金をつぎ込んで、そして当然ながら、紛争が収まるとそれはつぶれた。

セローがティラナをはなれて3年後の1997年に、損をした国民が大暴動を起こして、ホッジャの後継政権もつぶれた。
もちろん旅をしていたころのセローがそんなことは知るよしもない。
彼はアルバニア南部からギリシャへフェリーが出ていることを知り、タクシーを借り切って南部の都市サランダに移動することにした。
とちゅうであちこち見物しながら行くという条件で、タクシーは盗難車のBMWだった。
セローは運転手といろいろ話をしたけど、アルバニア人はギリシャ人が嫌いだという部分を聞いて、となり同士の国っていうのは仲がわるいのが普通なんじゃないかと、これはわたしが思う。

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サランダまでのドライブは2日がかりで、とちゅうの道路はろくなものではなかったけど、海岸の美しさだけはわるくない。
これは発展が遅れているから、かえって自然環境がよく保存されているということで、リゾートとしての将来性はかなりありそうだ。
最終目的地までセローが払ったタクシー代は100ドルで、距離は200キロぐらいあり、2日がかりのドライブだったからむちゃくちゃ安い。
この街からフェリーに乗ることができて、セローは無事に奇跡の国(よくない意味で)アルバニアを脱出することができた。

独裁政権が長かったことで悲惨だったこの国は、ようやく新しい一歩を踏み出したところのようだ。
しかし極東アジアにはいまなお冷酷な独裁者が君臨する国がある。
そんな時代遅れの政治はさっさと放棄して、人々に自由を与え、自由経済に移行するほうが、けっきょくは国を富み栄えさせる早道なんだと教えてあげたい。
日本では文豪・森鴎外も、明治時代にとっくにそのことに気がついていた。

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