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2021年1月 9日 (土)

地中海/ヴェネツィアA

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ヴェネツィア(ベニス)を舞台にした映画「旅情」は、「戦場にかける橋」や「アラビアのロレンス」の巨匠デヴィッド・リーンが、1955年につくった映画だ。
この映画は、米国人のアラフォーであるキャサリン・ヘプバーンが、長い橋梁の上を列車で渡っていくシーンから始まる。
わたしはカン違いをしていた。
ヴェネツィアというのは、てっきり運河の多い低湿地にある、大陸に属した港町だと思っていたんだけど、じっさいには大陸から切り離された小さな島だったのだ。

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島に渡るためには、鉄道と自動車道路のある橋を渡らなければならず、地図を見ればわかるけど、リベルタ橋というこの橋の全長は4キロぐらいある。
「旅情」は「ローマの休日」と同じように、物語とタイアップして街を紹介してしまう観光映画ともいえるので、わたしは「大地中海旅行」を読みつつ、ストリートビューと並行して、この映画の場面にも注目することにした。
有名な観光地に興味がないというポール・セローも、ここでは水の都ヴェネツィアをすなおに称賛する。
ただし、彼はヘプバーンと違って、島の反対側から水上バスでやってきた。

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また地図を見てほしい。
フェリーニの故郷であるリムニから列車に乗ったセローは、キオッジャという街で下車する。
キオッジャの北側には、ベッレストリーナ島とリド島という、まるでサンゴ礁のようにほそ長い島が、たて一列に並んでいる。
セローはフェリーに乗って、この二つの島を経由してヴェネツィアに向かうので、まずベッレ(ストリーナ)島からストリートビューでながめてみよう。

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砂洲のようにほそ長い島であるにもかかわらず、幅が300メートルぐらいある場所には、人間の生活があり、緑の野原、サッカー場、学校、教会まであった(ストリートビューは広角レンズを使っているので、じっさいより広く見える)。
しかしこの島については、沈んでしまいそうな、筏かカーペットのような島と書かれているだけで、記述があまり多くないから、サイクリングをするくらいしか見るべきもののない島なのだろう。

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ベッレ島にくらべるとリド島は、ほそ長いという点は同じだけど、いちばん幅が広いあたりには簡単な飛行場もあるし、セレブ御用達のようなホテルがいくつもある。
なによりここは、有名なヴェネツィア映画祭が開かれる場所なのである。
そしてトーマス・マンの小説「ベニスに死す」の舞台だそうだ。
映画化されたものはテレビで放映されたはずだけど、老人が若者(男)に恋をする映画らしいので、そういうものに興味のないわたしは、不覚にも録画するのを忘れた。
この小説の主人公が泊まったのが「エクセルシオール」という豪華ホテルだ。

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小説は1912年の作品だけど、このホテルはいまでも同じ場所にあって、セローも「エクセル」に泊まろうかな、でも高いからな、やっぱりやめておこうと躊躇している。
そしてベニス(ヴェネツィア)とリド島はぜんぜんちがうのだから、この小説のタイトルは「リド島に死す」のほうがふさわしいと書く。
古都としてではないヴェネツィアの近代的華やかさは、大部分をリド島が引き受けているのだろう。

けっきょくセローは島の内側に安くて清潔なホテルを見つけ、翌朝散歩に出かけて、やたら派手に飾ったカッターボートが行進してくるのを目にした。

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これはヴェネツィアで毎年行われている「海との結婚」祭りに参加するボートで、日本の沖縄の伝統的なハーリー祭のようなものだった。
ただ2019年のこの祭りは6月のしょっぱなに開かれているから、どっちかというと初夏の祭りのように思えるのに、セローの旅はシーズンオフの時期である。
そのへんがよくわからないけど、せんさくはやめて、ネットで見つけたこの祭りの写真を載せておこう。

さて、ヴェネツィアだ。
じつはわたしの「世界ふれあい街歩き」というテレビ番組コレクションの中にも、ヴェネツィア編が2本あるので、映画「旅情」と、「ふれあい街歩き」と、ストリートビューをみんな参考にしながら、市内の観光ポイントをながめていこう。
アラフォーのキャサリン・ヘプバーンは、リベルタ橋をがらがらと蒸気機関車で渡ってくる。

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映画製作当時はまだ煙をはいていた列車も、古いヴェネツィア駅も、あいだにすでに70年近い年月がはさまっているので、とっくに近代化されている。
映画には古い駅舎がちらりと出てくるけど、べつにナントカ様式というような美術的な建物でもなかったようだ。
しかしこの街にはススぼけた駅舎が似合うので、まっ白くてモダーンな現在のサンタ・ルチア駅になったのは残念だ。

ヴェネツィアに到着して、サンタ・ルチア駅から外へ出たヘプバーンは、ホテルまでタクシーを呼ぼうとする。
ところがヴェネツィアは、むかしもいまも自動車は走っておらず、最近では自転車まで走行禁止にされたそうだから、ここではゴンドラがタクシー代わりである。
ケチな米国人の彼女は、ゴンドラの値段を聞いて水上バスを使うことにした。

ホテルではガラス工芸で有名なムラーノ島が見えるという部屋へ案内されるけど、このムラーノ島は「ふれあい街歩き」に出てくるので、あとで紹介しよう。
ヘプバーンの旅は、飛行機やホテルなど基本的なところは旅行会社におまかせ、ただしホテルはいくつかの候補のなかから自分で選び、現地では自分で勝手に歩きまわるという、わたしにとっても理想の旅といっていいものだった。
彼女は水上バスで市内を見てまわり、うれしがってカメラで写真を撮りまくる。
外国でカメラをぶら下げた観光客というと、かっては日本人というのが定石だったけど、アメリカ人も変わらないじゃん。
とりあえず彼女を魅了した、この街の代表的風景をストリートビューで紹介する。

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ここにずらっと並べた写真の最初の2枚は、街の中心にあるリアルド橋とそのあたりで、運河の街ヴェネツィアを代表する景色。
あとは適当に見つけた旧市街だけど、いや、もうじつに魅力的な街である。
わたしもこの街に2週間ぐらい滞在して、水上バスであっちこっちを見てまわり、島めぐりをしたり、路地裏や市場などをのぞいてみたいと思ってしまった。

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