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2021年4月14日 (水)

地中海/イスラエル

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エジプトでノーベル賞作家アフフーズを見舞ったあと、アクデニズ号にもどったポール・セローは、つぎの目的地イスラエルに向かう。
冒頭の写真は、このあと訪問することになるテレアビブの夜景。

イスラエルに上陸するまえに、セローは入国審査にひっかかってしまった。
船に乗っていたのはほとんどがトルコ人だったのに、彼はたったひとりの米国人だったので、これじゃ不審人物と思われて当然だ。
なんでアメリカ人が乗ってるんだ、おおきなお世話でしょうとやりあってるところへ、美しい(とは書いてないけど)女性係官があらわれて、彼女はセローの本を読んだことがあり、おかげで無事放免された。

わたしにも似た経験がある。
むかし中国の青海省にあるデリンハという街にホテルをとったときのこと。
そんなことは知らなかったんだけど、この街は外国人立ち入り禁止に指定されているところで、すぐに3人の警察官がやってきた。
そのなかにきりりとした顔立ちの美しい女性警察官がいた。
なんでこんな田舎にあなたのような美しい警察官がいるんだと、中国語でどういえばいいかと思案しているうち、まあ、ノーテンキな顔をしてるから問題ないだろうと、無事放免された。
おかげでその日いちにちホテルに缶詰だったけど。

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セローはイスラエルのハイフォという港に上陸する。
これがその街だ。
ハイフォは中東にあって中東らしからぬ、どこかアメリカ・ナイズされた都市である。
それは米国が膨大な支援をしているからで、あそこに見えるビルも、オレの税金が使われているにちがいないと、米国人のセローは思う。

イスラエルというと、その認知度のわりには日本人とあまり縁のない国だ。
紛争地帯という報道がらみか、聖書にちなむという宗教がらみでもないと、わざわざここへ行きたいと思う人はいないんじゃないか。
そういうわけでわたしもイスラエルについてはサッパリ。
「ガザ地区」や「ゴラン高原」や「ヨルダン川西岸」などという地名はよく聞くけど、具体的にそれがイスラエルのどのへんにあるのかということも知らなかった。
いい機会だから、セローの本を読んだついでに勉強しよう。

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イスラエルの大きさからいくと、変則的なかたちをしているので比較しにくいものの、面積だけでいえば秋田県や長野県とほぼ同じくらいである。
縦にほそ長い国なので、できるだけ横長の写真を使うことにしているこのブログに載せにくいから、まずおおざっぱに地中海とイスラエルの関係がどうなっているかを示し、つぎに拡大した地図は90度時計まわりに転倒させてしまう。
転倒した地図では上が地中海で、イスラエルとガザ地区、ゴラン高原、ヨルダン川西岸の位置関係はこんな具合だ。
本来ならヨルダン川西岸もイスラエルの領土ということにしてしまったほうがすっきりするし、イスラエルもそう望んでいるんだろうけど、そこはそれ、いろいろと国際的にムズカシイ問題があるらしい。

セローはハイフォで、飯がうまい、本屋の品揃えがいい、劇場も充実している、交通網が完備している(エジプトのカイロ、ヨルダンのアンマン行きのバスまであったそうだ)、ようするにどこもかしこもアメリカに似ているということを確認して、そんな街を見物しても仕方がないと思ったか、列車でさっさとテレアビブに向かうことにした。

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これは古いハイフォの駅と現在の同じ駅。

列車のなかには物騒なものがあふれていた。
イスラエルが紛争真っ只中で、軍人が多かったということもあるけど、セローが数えてみたら、彼が乗った車両だけで、ライフル、拳銃とりまぜて10人は銃で武装していたそうである。
ライフルかかえた兵士は車内でうたた寝をしていて、へたすると寝ぼけて引き金を引くんじゃないかと、セローははらはらしながらの道中だった。

列車のなかでこの国の歴史をかんたんにおさらいしてみると、まず建国は第二次世界大戦のあとの1948年で、二枚舌を使う狡猾な英国の植民地政策の結果といえる。
ほんとうに英国の植民地政策というのは、その後の歴史に禍根を残すことばかりだ。
それに比べたら戦争の罪はみんな認めて、戦争中は同じ枢軸国側だった韓国にまで賠償する日本のなんて生まじめなこと。
そんなことはさておいて、建国をきらう周辺のアラブ諸国との、第1次から4次までの中東戦争をへて、ダントツの軍事力を保持するイスラエルは、この地にしっかりした足場を築いたというところ。

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テレアビブに行く列車は開けた海岸を通る。
見通しがいいのは、テロリストが深夜にボートで侵入するのを防ぐためではないかとセローも書いている。
彼が滞在していたあいだにも、あっちこっちでユダヤ人とパレスチナ人の衝突、テロ攻撃と報復の攻撃、報復の報復の攻撃が続いていた。
そんなドンパチはともかく、これは鉄道沿線の海岸線だ。
すべてが見通しのいい海岸というわけではなく、風光明媚で、イスラエルのリヴィエラというリゾートもあるらしい。

トルコとギリシャの関係では、セローはトルコの肩をもった。
ここイスラエルでは、はっきりいわないけど、イスラエルに圧迫されるパレスチナに同情的だ。
米国はイスラエルの支援をしてきたから、国の政策としてはイスラエル寄りといっていいけれど、このへんは自由にものをいえる中道左派の作家の良心といっていい。
これは日本人の総意とも合致していて、たいていの日本人はパレスチナに同情的である。
理由はイスラエルが強すぎて、つい弱いほうに味方する判官びいきということもあるだろう。

さて、テレアビブだ。
イスラエルはエルサレムを首都にしたがっているけど、やり方が強引すぎるということで、国際社会が認めている首都はテレアビブということになっている。

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これはテレアビブの駅。

テレアビブについて、中東というよりやっぱりアメリカの都市に似てるなとセローは書く。
フロリダのどこかを参考にしたんじゃないかという文章もあるけど、わたしはフロリダへ行ったことがないからわからない。

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とりあえずどんな街なのか紹介してしまう。

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ここにはヤッファという旧市街があるので、海側からながめたその遠望と、つぎに街のようすをと思ったけど、ここは区画整理がされたあとのようで、ストリートビューでながめてもあまりおもしろくなかった。

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テレアビブでセローは美術館に寄る。
彼はヒマがあるとクラシックの演奏会などにも立ち寄って、だれそれの演奏会がよかったなどとゴタクを述べているから、なかなか優雅な旅行である。
この美術館ではパメラ・リーヴィという女性画家の絵に関心を持った。
セローが関心を持つ絵というのはどんなものかと、わたしも関心を持って調べてみた。

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これが彼女の絵で、セローの文章のなかに出てくる「レイプ」という絵である。
セローがほめるほどいい絵とは思えないけど、そこからなにを感じるかは個人の自由だから、絵とタイトルと、そしてイスラエルは日本よりずっと緊迫感を持って生きなければならない国であることだけを説明して、あとの判断は観る人におまかせ。

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