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2021年4月12日 (月)

ウイグル問題

わたしは平和愛好者である。
しかるに最近では国家間や民族間の対立をあおるような風潮が蔓延しているようで、先の短い年寄りとしてもあまり楽しくない。
とくに最近はアメリカが、トランプさん以降、中国を口をきわめて罵っている。
英国を筆頭に、西側先進国の(ま、ほんの少しの国だけど)がこれに便乗して大声をあげている。
日本でもここぞとばかりに、中国ギライという人たちが張りきっているけど、わたしはたまたまイスラエルの作家エミール・ハビビの小説を読んだばかりだ。
ハビビはパレスチナ人でありながら、イスラエル国籍を持つという複雑な境遇を受け入れた人であって、こんなことを言っている。
現代は協調の時代であって、不平不満をあおって、民族間の対立をあおるような意見はつつしむべきだ。

わたしは最近、インターネットで、中国におけるウイグル人の大虐殺はまちがいないという説を発見した。
これは東大教授のHさんという人が発表した論文だけど、新疆のウイグル人の人口が、2017年から2018年にかけて著しく激減していて、これぞジェノサイドの動かぬ証拠だという。
これは中国政府が公式に発表した「中国統計年鑑」というもののデータだから、日本側が捏造したわけではないとHさんは主張する。
どうもこの人の文章はあまりにも白黒がはっきりしていて、わたしなんかこれだけで極論だなと思えてしまうんだけど、この意見は正しいだろうか。

わたしもその統計年鑑に目を通してみた。
ウイグルの人口がそのころに164万人も減少していることはまちがいがない。
ただ、これにはいくつか疑問がある。
ほんとうに160万人規模のジェノサイドがあったのなら、なんでそんなはっきりわかるような数字を中国政府は統計に載せたのか。
ここに張ったリンクの先にあるグラフは中国の統計をもとにHさんが作ったものだけど、どうして人口減少がほんの1年ほどのあいだに集中しているのか。

わたしは数字をにらんで考えた。
中国政府が正直な数字を統計に載せた理由は、このHさんの論文のなかにヒントがありそうだ。
彼の論文のなかに、「とりわけ新疆ウイグル自治区においては、IT・AI独裁の極みである『一体化聯合作戦プラットフォーム』が運用されており、強制収容所収容者の生死に関する情報もまた厳格に管理され、国家・自治区の公安情報データに反映されているはずである」という文言がある。
このプラットフォームのおかげで少数民族の人口を把握しやすくなり、それを中国は不注意にも統計に載せてしまったのだろう、つまりオウンゴールというわけだとHさんはいう。
しかしそんなヘボ・サッカーみたいなことを、いくらなんでも中国が公式の統計でするだろうか。

これにはべつの考えもできる。
たとえば、プラットフォームが完成するまでは、広い砂漠に分かれて暮らすウイグルの人口は正確に把握できていなかった。
コンピューターを利用したプラットフォームのおかげで、正確な人口を把握してみたら、それ以前に知られていたよりも、ウイグルの人口は存外少なかったということはないだろうか。
プラットフォームが導入されたのが2017年ごろとすれば、2018年だけ人口がガクンと減って、それ以降はあまり変化がなくてもおかしくない。
この考えは中国統計局の発表をもとにした結果だから、まちがっているというなら、そもそものHさんの考えもおかしいということになる。

まだ疑問がある。
ジェノサイドが本当にあったのなら、たくさんの難民が出現するはずだけど、2017年から2018年にかけてそうした現象はあっただろうか(最近のジェノサイドとして有名なユーゴやルアンダの内戦では膨大な数の難民が発生した)。
砂漠の国だからすべて中国政府が闇に葬ったというのは詭弁だ。
中国は周辺のイスラム国とも地続きであり、その気になればもともと砂漠の民のウイグル人は、徒歩で天山山脈を越えることも可能だったはずである。

Hさんの文章にかぎらず、だれがどんな考えを持とうと他人がとやかくいうことではない。
しかしいろんな情報が錯綜する現代において、若い人たちがこういう偏った意見を信じてしまうのは問題だ。
大切なのは、相手がえらい先生だからと鵜呑みにするのではなく、どんなことでも自分の頭で考えることだ。
そして特定の民族ではなく、相手がこれこれこういう民族だったらどうかと、できるだけ公平で客観的なものの考え方をすることだ。
先の短いわたしは、どうしてもこのくらいのことをいっておきたい。

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