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2021年7月20日 (火)

アフリカ/ケニア

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前項でエチオピアからケニアへの道はろくなもんじゃないと書いたけど、ケニアに入ったポール・セローは、国境の町モヤレから首都のナイロビを目指した。
この道路は、わたしはまだ本の後ろのほうを読んでないからわからないけど、ひょっとすると「ダーク・スター・サファリ」のなかでいちばん危険な道かもしれない。
鉄道はなし、バスも走ってない、めちゃくちゃ荒れた道で、さらに恐ろしいのは、この道路ぞいには銃をもったシフタと呼ばれる強盗が出没することだった。
じっさいにセローはシフタに襲われるけど、さてどうなるか。

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そんな物騒なケニアの北部ってどんな景色なのと思い、衛星写真をながめてみたら、まるで火星のような茶褐色の大地がひろがっていた。
しかし地上でながめると、大半は短い草や灌木の生えたいわゆるサバンナという地形で、これならゾウやライオンが飛び出してきても不思議じゃない感じ。
でもセローの旅はサファリ・ツアーではないから、野生動物はあまり出てこない。

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交通の便としてセローは家畜運搬用のトラックを見つけた。
これは冷凍トラックのないこの地方で、牛を生きたまま運ぶための車で、現地のアフリカ人にとっても貴重な交通の足だった。
トラックはもちろんポンコツで、スピードは20キロしか出せず、牛が20頭と少数の現地人、ライフルを持った用心棒の兵士まで乗り込んできて、料金は3ドル。
牛を運ぶというと、馬で追いながら旅をするアメリカのカウボーイを連想するけど、アフリカでそんなことをしたら、とちゅうでみんなライオンにでも食われてロスが大きいのかもしれない。
バスのなかでセローはまた美しいアフリカ女性に見とれており、とちゅう立ち寄った村でもしょっちゅう現地の女性に見とれているから、彼の黒人フェチは本物のようである。

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モヤレからしばらくはシフタの危険地域で、外国人が乗った車がこのあたりを走る場合は、武装兵士の同乗が義務づけられていた。
この写真は「アフリカ縦断114日の旅」というテレビ番組をキャプチャーしたものだけど、欧米人観光客が乗っているバスに、いままさにライフルを持った兵士が乗り込むところ。
この道にはあちこちに検問所があって兵隊が駐屯していた。
シフタの危険を回避するにはいいけど、彼らは通りかかる車から非合法の通行税を徴収するそうで、運転手からは嫌われている。
それでも検問所は安全だから、そこに着くとトラックの全員が安心する。

とちゅうでパン!と銃声がした。
と思ったらタイヤのパンクだった。
ただのパンクではなく、古いタイヤが裂けてしまったのだ。
「アフリカ縦断114日の旅」にも、同じコースと同じようなトラックが出てきたけど、タイヤはぼろぼろだったから、ミシュランだ、ピレリだと寝言をほざける国ばかりじゃないってことだ。
家畜運搬車は何台も走っているので、運転手らが修理にもたもたしているのを見て、セローはさっさと後続のトラックに乗り換えてしまう。

とちゅうでまたパン!とバンクの音がした。
と思ったら強盗だった
こっちの車に乗っていた用心棒の兵士が発砲すると、相手はすぐにあきらめたようだった。
このあたりの強盗は近郷の住人が、家業のあい間のアルバイトとしてやってるそうで、命を賭けてまで仕事をしようって気はないらしい。
ところで強盗の狙いは靴だそうである。
時計やハンドバックを奪ってもあまり使い道はないし、砂漠を移動するには靴のほうが大切だからとセローは書いている。
セローはできるだけ粗末な服装で旅をするようにしているけど、このあと砂漠を歩くこともあったから、靴だけはいいものを履いていたかもしれない。

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マルサビットという町に着いた。
セローが旅をした20年まえはどうだったか知らないけど、この町の近くには、現在は立派な舗装道路が走っている。
しかし幹線道路以外を舗装する余裕は、ケニア政府にはないようで、一歩郊外に出るともうサバンナまっただ中という感じ。
ここには定点撮影の全方位カメラではなく、めずらしく移動しながら撮影したストリートビューがあったので、思い切りのぞいてみた。
最初はただの町並みだけど、どんな感じのところなのか雰囲気はわかるだろう。
町の清潔度について日本と比較しちゃ気のドクだから、しない。
それでも現在のマルサビットは、なかなか快適な観光地になっているようで、これならわたしももっと若ければ、ひとりで町のなかを歩いてみたいところだ。

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セローが泊まったのは1泊が3ドルの「ジェイジェイ」というホテルだったというから、ストリートビューで町を見てまわるついでにこのホテル探してみた。
見つからなかったかわり、ほかのホテルやゲストハウスがいくつかヒットした。
泊まってみたいホテルもあれば、ちと遠慮したくなるホテルもあるし、バックパッカー御用達の安くて便利なホテルもある。
セローの本を読んで思うのは、これは貧乏旅行をする若者たちのバイブルになり得る本だということである。

マルサビットは援助活動家や慈善団体などのベースキャンプにもなっていて、彼らのピカピカの四輪駆動車が集まっていた。
こういうグループに対するセローの目はきびしい。
家畜運搬車で四苦八苦しながら旅をしているとき、そういう車に出会って、乗せてくれないかと頼んでみたらハナもひっかけてもらえなかったから、恨んでいるのかもしれない。
そうでなくても彼は若いころ援助団体で働いたことがあって、そのしくみや実態、そして欺瞞や偽善などについてもよく知っていた。
もちろん相手は善意でやっているんだろうけど、組織が大きくなると善意さえビジネスになってしまうものらしい。
セローの本にはあっちこっちにこういう団体への批判や皮肉が出てきて、それをまとめればそれだけで一冊の本になってしまいそうである。

たまたま出会った慈善団体の娘ふたりに話を聞いてみると、飢えた人々に補助栄養食を与える仕事をしていますという。
これがちょっと驕慢な言い方に聞こえたから、まるで動物保護区でゾウやサイに餌を与えるみたいだねと、セローは揶揄する調子でいう。
これでは相手は気をわるくしてしまう。
しかし動物に餌をやるような援助でも、ぜんぜんやらないよりはマシだろうし、この問題はあとでもういちど出てくるから、ここではこれ以上この問題に口をはさまないことにしよう。

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マルサビットの郊外に国立公園があって、木々の葉がこんもり茂った森のなかに、地殻変動の時代に生じたらしい丸い池があった。
現地の女の子がバッファローの頭蓋骨をかかげているけど、マルサビットはかって欧米からやってくる、大物狙いのハンターたちのベースキャンプとしても有名だったところである。
ナチュラリストでもあるセローにとってこれはゆゆしき問題で、金持の道楽ハンターをさんざんにこきおろさずにはいられない。
しかしゾウやライオンの数には限りがあるので、最近ではそれを鉄砲で撃つより、おとなしく動物を観察しようというツアーのほうが主流のようである。
この問題については次項で。

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