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2021年8月 7日 (土)

アフリカ/ナイロビ

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旅行の好きな人ならだれでも「地球の歩き方」というガイドブックを知ってると思う。
まだインターネットがそれほど普及しておらず、ほかに情報を得る手段が乏しかったころ、わたしも海外旅行に行くときは、これを徹底的に読み込んでから出かけたものだった。
このガイド・シリーズは世界を網羅していて、もちろんアフリカもある。
ブログ記事の参考になるかと思って、いちおう図書館で目を通してみたら、ケニアの首都ナイロビは、高層ビルのたちならぶ近代都市であると同時に、そうとう危険な街でもあるようだった。
ポール・セローは、夜中に移動するときはかならずタクシーを使えといわれて、それを忠実に守っている。
彼の旅はもう20年もまえのことだけど、最新版の「地球の歩き方」にも同じ注意が書いてあった。

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ケニヤ山の近くの町ナニュキから、セローはすし詰めのタクシーでナイロビにやってきた。
現代のナイロビはアフリカでも有数の大都会だけあって、ストリートビューも街をくまなくカバーしており、かえって目標を定めにくいくらい。
同じ大都会でもニューヨークや東京と異なるのは、こんな大きな動物が郊外をうろうろしていることだろう。

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この街のランドマークタワーは「ブリタム・タワー」といって、夜ながめるとライトアップされてきれいだけど、昼間見るとまわりの景色はこんな感じで、おもしろくもなんともない。

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駅を探してみたら、中国に金を出してもらったのか、すごい立派な駅があった。
まだ駅前広場は造成工事が終わってないから、つい最近できたものにちがいない。
セピア色の写真はセローが旅をしていたころの駅。
ストリートビューが完備していると、こんなふうに街のなかをくまなく見てまわることができる。
これでは現実の旅とコンピューターのなかの仮想旅行で、受ける喜びは変わらないということになり、いったい旅というのはなんだろうと考え込んでしまう。

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セローはここで「ニュー・スタンレー・ホテル」というホテルに泊まっているから、それを探してみた。
この名前で検索すると「サロバ・スタンレー(Sarova Stanley)」というべつのホテルがヒットした。
どうやら名前が変わったらしいけど、このホテルはヘミングウェイやチャーチルも泊まったこともある由緒あるホテルで、名前は変わっても建物はほとんどむかしのままだった。
セローはこれまでホテルにあまり贅沢をしなかったけど、安全を考慮したのか、それともここまで来ればひと安心ということで、保養のつもりで贅沢をする気になったのか。
まえに書いたように、ナイロビからはもうアフリカ最南端のケープタウンまで、鉄道で行くことも可能なのである。

ナイロビにはインド人が多かった。
ケニアのかっての宗主国だった英国は、アフリカ人を労働者として利用するために仕事や勤勉さを教えこもうとしたけれど、とうてい無理だという結論に達して、同じ植民地だったインドから人間を大量に移住させたのだ。
自分たちがやるにはメンドくさい仕事を、彼らに肩代わりさせるためで、香港にもインド人が多いということは邱永漢さんの本に書いてあった。

セローが話を聞いたインド人は、この街はひどいところだという。
強盗や泥棒がいたるところにいて、米国大使館爆破事件の調査のために訪れたFBIの捜査官が、あっという間に財布と拳銃を盗まれたこともあったそうだ。
そんな物騒なところが見てみたいと、ストリートビューで裏通りや貧しい地域を重点的に探してみた。
あいかわらずヒトがわるいなといわれそうだけど、先進国と同じような景色には興味がないもんで。

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たしかに貧しいところは徹底的に貧しい。
先進国の都市がしだいに堕落した米国とは事情が異なるけど、すさんでゴミだらけのところは似たようなものだ。

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街のなかにゴミをあさるハゲコウも棲みついていたそうである。
この鳥はさすがに米国にはいないから、バードウォッチャーの観点から注目しておくと、ごらんのようにあまり可愛らしい鳥ではない。
しかしこれは残飯を放置する人間のほうに問題があるので、つらがまえについては鳥に罪があるわけじゃない。

セローはパーティで知り合ったケニアの作家に話を聞く。
国際的な作家だけあって、セローがこうしたサロン的パーティに招かれることはよくあったようだ。
ただ彼は強盗に狙われないように、できるだけボロっちい服装で旅をすることにしていたから、そんなパーティにどうやって参加したのか、ちと気になる。

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このとき会話した相手はワホメ・ムタヒといって、政権にたてついたということで15カ月の獄中生活を送った人である。
彼の作品には「ケニア人になる方法」なんて本があって、これは自分自身とケニア人を自虐的につづったユーモアのある本らしいから、読んでみたかったけど、近隣の図書館のどこにも置いてなく、ヤフオクにも出品されてなかった。
どうやら日本語版は出てないようだ。

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この作家とセローはケニアの現状や、未来の展望について語り合うけど、それははなはだ悲観的なものだった。
援助するからいけないんですよというのがふたりの一致した考え。
アフリカの困窮をみかねた欧米や日本がいくら支援したって、政治家がその金をみんなふところに入れるから、ザルで水を汲むようなものだし、国民は援助になれてしまって自立しようという考えを持たなくなってしまう。
かって援助大国だった日本はさんざん煮え湯を飲まされて、最近は現金ではなく、インフラ整備や教育支援などの中抜きしにくい援助に力をそそぐようになった。
かわってアフリカに進出したのが中国である。
今度は中国がむしり取られることになるのかと思ったら、中国もバカじゃない。
かならず担保を取るのが中国のやり方だけど、アフリカもバカじゃない。
港湾の使用権や鉱山の採取権なんてものは、現ナマが途切れたらとたんに反故にされるに決まっている。
中国の夢は、あの国の繁栄がどれだけ続くか、いつまで気前よく金を出せるかにかかっているのだ。

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それにしたって、セローの旅からもう20年経っている。
ケニアはいまでも貧しい第三世界の国のままなのだろうか。
オリンピックでケニアのバレーボール選手のくったくのない笑顔などを見ると、あまり不幸を感じないんだけど、と思っていたら、まだつい最近ネットで、ナイロビ在住のある人が、車の窓から無用心にスマホを突き出して、どのくらいひったくりに遭うかテストする映像を見た。
いや、つぎからつぎへとカモがひっかかること。
ナイロビが犯罪多発都市であることはいまなお事実のようだった。

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