ジェノサイドの丘
かって「フォーカス」という写真週刊誌があった。
まだやる気のあった新潮社が出版した、意欲的な写真による報道の専門誌で(いまでもやる気があるかどうか、最近は週刊新潮もほとんど読まないからわからないけど)、目をそむけるようなアフリカの残虐な写真も、この誌上でよく目にしたものだった。
もっとフォーカスのことを書きたいけど、ここでそれを書いてるヒマがない。
「ジェノサイドの丘・ルワンダ虐殺の真実」という本について書いておかなければならない。
知らない人がいたらこのさい知ってほしいけど、“ジェノサイド” というのは、特定の目的を持って特定の民族や国民を絶滅させる行為をいう。
ナチスのユダヤ人絶滅作戦や、カンボジア、旧ユーゴなどの大量虐殺が有名だ。
ルワンダでジェノサイドが始まったきっかけは、以前観たテレビ番組によると、ひとつのラジオ放送だったそうだ。
ある日ラジオが、ツチ族を殺せ、殺せとがなり立てた。
これだけで100日のあいだに50万人以上、ルワンダ人の10〜20パーセントが殺されたという。
日本でいえば東京都の人口がそっくり殺されたようなもので、しかも凶器がナタや釘を打ちつけた棍棒というのだから恐ろしい。
上記のフォーカスには、殺されて川に投げ込まれた大勢の死者の写真が載っていた。
これはバカげたプロパガンダに踊らされる人間がいかに多いかということである。
とくに昨今のように、インターネットに悪質なデマが飛び交う時代においておや、わたしたちも注意していないと、いつ加害者もしくは被害者になるかわからない。
日本は先進国だからそんなことは起こらないという人は、ドイツの例を見ればよい。
ナチスの宣伝相だったゲッベルスの名前を知っているだろうか。
ナチスの大量虐殺も典型的なプロパガンダの結果だったし、そのときの状況、つまり人々のあいだに不平不満がつのっていて、だれもが閉塞感におそわれているような時代には、煽り行為にかんたんに引っかかってしまう人が多いのだ。
逆にそういう時代には、他人を煽ってよろこぶ人もたくさん現れるのである。
日本人は教養もあるし、情け深いから大丈夫という人がいるかも知れない。
もちろんルワンダにもそういう冷静な人たちは大勢いて、おそらく大半の人たちは、昨日までの隣人を殺すのをためらったに違いない。
しかし「ジェノサイドの丘」によると、真っ先に殺されたのはそういう穏健な人々で、ようするにプロパガンダを発信した連中にとってジャマになる人たちだった。
殺せと叫んだ連中は少数派でも銃器を持っており、殺さなければ自分が殺されるとなったら、その他大勢の穏健派も殺戮者の仲間に加わらざるを得なかったのである。
日本にも過去に例がある。
太平洋戦争のとき、戦争に反対する人たちは国賊として迫害された。
迫害したのはその他大勢の、どこにでもいる一般国民だったのだ。
最近でもでたらめなネット情報のせいで、コロナワクチンの接種をためらってしまう人がいるというくらいだから、フェイクニュースを正しく見分けることが、どれだけ大切かわかるだろう。
むしゃくしゃしたという理由だけで刃物をふりまわす人、ほんのささいなきっかけでとなりの車を煽る人、オリンピックをなんとか無事にやり終えてもそれがよけい腹が立つという人、政治も新聞もNHKもみんな自分の思い通りにならないと気にいらない人、世界はどんどん狭くなっており、閉塞感はいよいよつのる一方だ。
未来をしょって立つ若い人たちも、加害者か被害者になる可能性はいつでもあるのである。
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