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2021年9月 1日 (水)

アフリカ/リフトバレーの町

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ことアフリカにかぎれば、『街が大きければ大きいほど、より醜悪で、より猥雑で、より危険なところになる』というのはポール・セローの考え。
大きい街であるナイロビから、彼は乗り合いバスで、ビクトリア湖のほとりにある湖畔の町キスムを目指した。
この区間には鉄道があるんだけど、運休していたそうだ。
途上国ではこういうことはめずらしくないから、列車は時間どおりに来ると信じている日本人は注意しなくちゃいけない。
わたしは中国、ロシアなどで鉄道を何度も利用したことがあるけど、このふたつの国ではおおむね時間通りに発着した。
アフリカのほとんどの国はやはりまだまだ途上国だ。

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ナイバシャという町の手前にはロンゴノット火山がある。
この火山はアフリカから中東にまで連なるリフトバレー(大地溝帯)の底にあり、セローの本ではこの章は「リフトバレーの日々」というタイトルになっていた。
大地溝帯に興味のある人はまたウィキペディアを参照のこと。
何百万年かあとには、この割れ目を境にしてアフリカはまっ二つに分かれるとか、おもしろそうなことが書いてあります。

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ロンゴノット火山は山頂までストリートビューがあるから、またどんなところかのぞいてみたら、円形の盆地になっている火口は、そのへりを一周できるトレッキング・コースになっていた。
最後に噴火したのは1860年ごろで、それ以来噴火の気配がないから、クレーター内部に草木が茂って、シマウマやキリンやバッファローが生息しているという。
草食獣がいるなら肉食獣もいるのではないか思うけど、最近の肉食獣は人見知りするらしく、人間が彼らの餌になることはめったにないらしい。

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ナイバシャの町には「ジャカランダ」という花が満開だったという。
そんな花のことは聞いたこともなかったから、調べてみたら、ネムノキのような葉をもち、花のかたちは紫色のノウゼンカズラみたいな木だった。
セローが行ったときちょうどこの花の満開の季節だったらしく、彼は路上に落ちた花を踏んで歩いたという。

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花はこのブログにふさわしいビジュアル的な話題だけど、そうではない話題として、この町には人々によく知られた暗い事件があった。
この町の教会にカイザーという米国生まれの神父さんがいて、彼はケニア政府の腐敗ぶりに憤り、政治家の犯罪データをたんねんに集めて、ケニア政府に抗議をし続けた。
ある日、若い娘ふたりが与党の政治家にレイプされたと(警察にはまるっきり相手にしてもらえなかったので)、神父のところに駆け込んできた。
もちろん神父は政府に抗議した。
政府にしてみればうざったくて仕方がない。
無視したり脅かしたりしたあげく、単刀直入にアフリカ流の解決が計られた。
2000年のある日、セローの旅の半年ほどまえのことだけど、カイザー神父は道ばたで死体となって発見されたというのである。
セローがケニアに行ったとき、犯人とおぼしき政治家はまだ現職で、罪に問われるようすもなかったそうだ。
ま、途上国ではめずらしいことじゃないけどネ。

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ナイバシャからナクルという町に向かうと、このあたりにはいくつかの湖が点在している。
湖が多いというのもこのあたりが大地溝帯の内側にあるからで、国立公園になっているナクル湖にはフラミンゴがいる。
フラミンゴは地中海の旅でも紹介したけど、スペインよりはアフリカのほうがめずらしくない鳥だし、ここアフリカでは、上の写真のようなめずらしい景色が見られる。

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ケリチョの町には、アフリカ人に文明を教え、教育をほどこすのだというお節介な野望にもえた慈善団体の車が多かった。
こういう連中に対するセローの見方はきびしい、ということはまえにも書いた。
彼が教師をしていたころと比べても、アフリカはすこしもよくなっていない、あいかわらず人々は怠惰で、と彼は嘆息する。
でもわたしは思うんだけど、セローはすこし性急にすぎるんじゃないか。
セロー自身があちこちで、アフリカの時間はゆっくり流れているといっているくらいだから、途上国では汚職はつきものなのだと考えて、もうすこし長い目で見ないといけないかもしれない。
たとえば政府の腐敗で有名な中国やロシア(このふたつの国をひきあいに出すのはわたしがじっさいに行ったことのある国だから)も、いろいろいわれているけど、以前よりはほんの少しずつだけど、確実に国民の生活はよくなっているではないか。

彼がバスのなかで見たアフリカ人女性は、ウエイン・ダイヤーの「自分を掘り起こす生き方」というむずかしそうな本を読んでいた。
どうも自己啓発本みたいで、わたしも読んでみよう・・・とは思わなかった(むずかしい本はキライ)。
オリンピックではマラソンで男女ともケニア人が金メダルを得たし、スポーツ選手の努力がきちんと報われる国なら、他人がごちゃごちゃいうこともないのではないか。
アフリカのことを心配するセローの嘆きも、欧米人目線のものでしかないような気がする。

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キスムという町の手前には三階建ての家くらいある大岩があるという。
これもビジュアルにふさわしい話題だから、探してみて、見つけたのがこの写真だ。
べつにおもしろいもんじゃないね。
岩山なら日本の瑞牆山や鳳凰三山の地蔵岳のほうが、よっぽど迫力があって美しい(このふたつの山もじっさいにわたしが登ったことのある山)。
わたしは実証主義者だから、ひきあいに出すのはたいていそういうこと。

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セローはキスムの町に到着した。
この町にはビクトリア湖のほとりの終着駅があり、むかしはここからビクトリア湖をわたる連絡船が出ていて、アフリカで教師をしていたセローは、何度も船でウガンダまで通ったことがあった。
そういう思い出の場所だったけど、じっさいに着いてみると、それは残酷なものだった。
若いころ恋した相手にひさしぶりに再会してみたら、相手は認知症をわずらうおばあさんになっていたようなものだ。

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まずキスムまでの鉄道が廃線になっていた。
この写真は市内にかろうじて残っている線路の痕跡で、レールは雑草と土におおわれて列車が走っているようすはない。

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ストリートビューに「スタジアム」という表記があったので、味の素スタジアムみたいなものがあるのかと思ったら、ただの原っぱだった。
フェリー乗り場のある駅に行ってみると、あったはずの駅舎は影もかたちもなく、かって殷賑をきわめた駅のまわりでは、横流しされた援助物資ばかりが売られていた。
セローは無念の思いをいだいてケニアを去ることにする。

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去りながら、せめてものなぐさめにバード・ウォッチングをしたらしい。
ほんのわずかの記述だけど、彼はここで「アルポケン・エジプティアカ」というきれいなガンを見たという。
わたしも自称ナチュラリストだから、調べてみたら、こんな鳥だということがわかった。
キスムには、町からすこし離れた「キスム・インパラ自然保護区」という、いかにも野鳥観察にふさわしいポイントがあるので、セローはここへ行ったのかもしれない。

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