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2021年9月15日 (水)

アフリカ/チーター

ビクトリア湖を渡ってタンザニアのムワンザに上陸したポール・セローは、1時間後にはもう列車に乗っていた。
つぎの目的地はインド洋に面した、この国のかっての首都ダルエスサラーム。
2泊3日の鉄道旅行になるけど、ま、ゆるゆると参ろう。

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まずムワンザの町は、だいぶ予想とはちがっていた。
町の規模も発展ぶりも日本の地方都市と遜色がないし、現在のアフリカではあらかじめの予想は裏切られることが多いようだ。
港に入る直前に、前章で紹介したビスマルク岩が見えて、なんだかやけに大きな岩がごろごろしている町に見える。

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そしてムワンザの駅。
タンザニアの鉄道網は、アフリカにしてはまあまあマシなほうで、ここからはやはり中国の援助の手がのびており、ムワンザ近郊には立派な鉄道ができるらしい。
ようするに援助大国の中国が、いまちょうどむしられている最中だ。
この鉄道はかならずしも国道ぞいに走っているわけではなく、それこそサバンナのなかの道なき道という場所が多い。
セローの本には“ブッシュ列車”と書いてあるけど、日本語でいうなら“ヤブこぎ列車”ってトコかな。
だいぶのんびりした列車らしいので、わたしもいちど乗ってみたかったなあ。

アフリカ、サバンナといったら、誰でも思うのがゾウやライオンやサイやキリンといった野生動物に会うことだろう。
わたしのテレビ番組コレクションのなかに、役者の古原靖久クンがタンザニアの列車に乗るものがあるけど、線路の沿線に野生動物はほとんど出てこない。
列車が都会ばかり走っているわけではなく、大半はサバンナの中だというのにだ。
野生動物が出てくるのは、彼がセルー動物保護区に寄って、レンジャーの運転する観光ジープでわざわざ動物の見物に行ったときだけだから、アフリカ人のほとんどは生きたゾウやライオンを見たことがないというのも当然かも。

アフリカには野生動物を保護するため、そして先進国の観光客を満足させるための大きな国立公園がたくさんある。
全アフリカでも最大の広さをほこるナミブ=ナウクルワト国立公園や、クルーガー国立公園、サロンガ国立公園、まえに書いたマウントケニア国立公園もある。
そしてタンザニアには高峰キリマンジャロを含む一帯や、日本の阿蘇のような巨大な火口盆地であるンゴロンゴロ保全地域、よくテレビの自然ドキュメンタリーに登場するセレンゲティ国立公園などがある。
おそまきながら、密猟者や大物ハンターたちのやりたい放題になっていた動物たちを、保護しようという機運が高まってきたわけで、セローがなげいた状況は変わりつつあるようだ。

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しかしセローの旅には動物の描写は多くない。
もちろん車で移動しているとき野生動物はたくさん見えたはずだけど、彼はナイロビから先は、西どなりのウガンダに行き、ウガンダからビクトリア湖を渡って、タンザニアを南下するので、キリマンジャロやンゴロンゴロ、セレンゲティなどにはぜんぜん寄らないのである(地図参照のこと)。
わたしはそのへんの景色が見たいので、ここでしばらくセローと別れて、野生動物がうようよしているアフリカをながめていこう。

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キリマンジャロといえばアフリカ第1の高峰で、標高は5,895m。
富士山よりずっと高く、有名な山だけあって、山頂までストリートビューがカバーしていた。
わたしも登ってみたけど(もちろんストリートビューによるバーチャル登山だ)、富士山といっしょで山頂ふきんの景色はおもしろくない。
ここはやっぱりもうすこしふもとに近くて、前景にゾウやキリンがいたほうがおもしろい。
“ものの本”によると、このあたりの動物は高さに順応していて、たまに山頂の雪のあるあたりまでヒョウが迷い込んでくることもあるそうだ。

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この写真はキリマンジャロのもよりの町であるモシ市のようす。
コンビニもあった。
登るのは無理でも、せめてふもとから雄大な景色をながめてみたいとは、もっと若いころのわたしの念願(その念願は歳とともにどんどん遠ざかりつつある)。

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タンザニアで有名なもうひとつの野生動物保護区は、サバンナの平原を埋め尽くすヌーの大群で知られたセレンゲティ国立公園で、テレビ番組やナショナル・ジオグラフィックでおなじみだ。
ヌーを知らない人はいないと思うけど、とりあえずその迫力の写真を数枚。

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ゾウやライオン、キリン、ハイエナ、チーターなど、アフリカを代表する動物のほとんどがここで見られるので、サファリ観光も花盛りで、見物の車が渋滞することもあるらしい。
こういうサファリ・ツアーの観光客のほとんどが、現地のアフリカ人の生活には興味を示さないと、セローは手きびしい。

野生動物をまえにして、人間はとくべつな生き物だという考えがある。
いわゆるカルト宗教のなかにはこれを積極的に推し進めて、人間以外の動物はすべて人間に奉仕するために生まれたなどと主張するところもある。
こういう考えがかってはアフリカの黒人にもあてはめられて、奴隷たちが暗い不潔な船室に押し込められて、まったく家畜のように海を渡ったこともある。
神さまというのは人間のなかでも、特定の種類だけに報いるものなのか。
自分たちの思想の正当性を押し通すためなら、そもそも“カワイソウ”という、人間が自然に持っている(神さまから与えられたはずの)感情さえも無視してしまうのがカルトというものだ。

最新のナショナル・ジオグラフィック(2021.9)に、チーターの記事が出ていた。
チーターといえば世界一の俊足をほこるネコ科の猛獣だ。
ということはよく知られているけど、じつは人間に慣れやすいおとなしい動物でもある。
南米のジャガーはワニを捕まえて食べるけど、アフリカではチーターがワニに食べられている。
百聞は一見にしかず、その残酷な映像は YouTube でどーぞ。

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現存するチーターは世界中に7000頭ぐらいしかおらず、売ったり買ったりすることは国際的にも禁止されているんだけど、ナショジオ誌によると、その生息地で生きたままの子供のチーターの密猟が横行しているそうである。
顧客は中東の金持ちが多いそうで、たしかに獰猛そうなネコ科の動物が、じつはおとなしくて人に慣れやすいとなったら、見栄っ張りの成金たちが見せびらかすには都合のいいペットなのだろう。
そういうわけで、かっては米国人の歌手ジョセフィン・ベーカーも飼っていたようだけど、彼女の時代はまだチーターもたくさんいたんじゃないか。
あまり彼女を責めないでほしいと、チーターとベーカーの両方が好きなわたしは思う。

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現在では密猟者から売り飛ばされるまえに救出されたチーターの子供たちは、チーター保全基金(CCF)が保護することになっている。
しかし子供のころに親から引き離されたチーターは、狩りをおぼえてないから、野生にもどすことはむずかしいらしい。
日本には合法的に輸入されたチーターのいる動物園がたくさんあり、繁殖にも成功しているから、生まれたばかりの子供を見ることもできる。
じつは動物園で生まれたチーターが幸せかどうかは難しい問題だ。
野生で生まれていれば、生まれた子供の半分くらいは、まだ幼いころにほかの動物の餌食になっているはずだから、三食昼寝つきの動物園のほうが幸せという見方もある。

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